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第4話 堕ちて

 静かに家の扉を開けて中に入る。夜が明けてすぐでしんと静まっていた。  一旦自室に戻って着替えを持ち、バスルームに向かった。  ここでは三人で暮らしている。  結成まで接点のない3人でいきなりの共同生活になり戸惑ったが、家事や料理はお手伝いさんがくるしメンバーの二人も同世代のわりに自立しているから困ったところはない。  最初は普通に仲良く暮らしていたのに、いつからこんなふうになったんだっけ。  服を脱ぎながら洗面台の鏡に映る自分と目が合う。  染めた茶髪を手で梳いて、裸の上半身を撫でる。鍛えては居るがそこまで筋肉がついているわけでもない。それでも人に見せて恥ずかしくない姿はキープしているつもりだ。最近はやや、顔がやつれている。眠れないのもある。もう少し、ちゃんとしなくちゃな。  浴室に入り身体や髪の毛を洗った。ぼーっとする頭も少しはしゃきっとしてくる。  そろそろ出ようかという時に、いきなり浴室のドアが開き、驚いて振り向いた。 「央華……」  そこにいたのはメンバーの一人、宵口央華(よいぐち おうか)だった。筋肉質な美しい身体を隠すこと無く、下着だけの姿に怯んでしまう。寝起きなのか短い金髪はくしゃりと降ろされていて、不機嫌そうな緑色の瞳が俺に向けられていた。 「響くから静かに」  そういって、央華の手が身体を撫でた。  お湯がかかるのも気にせず首を掴まれ唇を塞がれる。 「ん……ふ、んぅ」  舌を絡められ、吸い付かれる。  央華の身体に手をついて押し返そうとするも、その手を握られ、半勃ちの彼にあてがわれた。 「……触って」  そう言う央華を素直に撫でた。  幾度となく繰り返してきて、抵抗感も前ほどない。  ただ、心だけが冷めきって遠のいていく。 「っ……ンぅ」  央華の唇が俺の胸に触れ、その先の尖りを舌がかすめた。  声を噛み殺して、刺激に耐える。  触れられる内に快感を覚えるようになったそこに吸い付かれると、電流が走るようにびりびりと刺激が走り、身体を仰け反ってしまう。  朝だし、時間がないから早くしないと。  ぼんやりする頭でそう思いながら、央華の下着をずらして直に触れて上下に擦った。  央華の手も俺のに触れて、すぐに勃たせられる。ごつごつした手に包まれると、自分で触るのとは違う心地よさが襲う。  胸を舌先で弄られ、じんじんするくらい吸われ、身体の奥で熱が燻る。  指先に急き立てるように刺激されて、淫靡な欲で頭がいっぱいになった。  央華がシャワーを止める。そして、腕を引かれて浴室を出た。タオルを手渡されるのを受け取り、身体と髪を拭く。央華も濡れた下着を脱ぎさり、タオルで身体を拭いていた。  中途半端な身体を沈めたくて、素直に央華のあとをついて彼の部屋に向かった。廊下を歩いている間、もう一人のメンバーが起きてきたらと、胸がどきどきした。 「楓季こっちきて」  先に部屋に入り、ベッドに腰掛ける央華に呼ばれる。黒いシーツの上に座る央華は、その見た目の美しさも相まってグラビア写真でも見てるみたいにセクシーだ。  素直に側に行くと、彼の膝の上に座らされ、求められるままに唇を重ねた。  キスしながら器用にローションを取り出し、指先が後ろに触れる。冷たさにびくりと退けようとする身体を抑え込まれ、指が入っていく。 「ん……ふ、んぅ」  刺激に耐えるために抱きついて、深くキスした。  央華の指が出入りし、中を探るように引っかかれる。気持ちいいところを掠めていき、ひくひくと指を締め付けてしまう。さらに指を増やされ、圧迫感が増した。  もどかしい刺激に身体はすっかりその気にさせられてしまい、形を示したままの自身を握って擦っていた。  唇が離れ、薄く目をあけると唾液が糸を引いてふつりと途切れるのが見えた。 「あんまり煽んな」  なんでそんなことを言われてるのかも考えられないまま、央華にもたれかかって手を動かした。 「はぁ……あぁっ、んっ」  更に指の本数を増やされ、押し込まれるとがくがくと身体が震えた。  気持ちいい。  はやく、央華がほしい。  こんなこと思ったらいけないのに。  ただ、早く済ませたいだけだと自分に言い聞かせる。 「あぁ、んぁっ……おう、か……」  先走りでどろどろに汚れる自分を慰めながら、指だと物足りなくてつい名前を読んでしまう。  つい数時間前、死のうとしていたのに。  こういうのが嫌で、悩んでいるのに、なんで自分からねだってるんだろう?  苦しくて涙が滲んでくる。  指が引き抜かれて、央華がゴムの袋を破る。  堪らなくドキドキして、馬鹿になった穴がはやくはやくとひくつく。 「ほら、自分でいれてみ?」  意地悪く微笑む央華。  ぽたりと水滴が零れ落ちる。  早くすませたいから、だから――。  彼の言う通りに、腰を持ち上げて央華のガチガチになった屹立を後ろにあてがい擦り付けた。 「ん、はぁ……んんぅっ……!」  腰を落としゆっくりと押し込んで行く。指とは比にならないほどの質量に息が詰まった。  奥まで押し込み央華に抱きついて、呼吸を繰り返した。  そのまま動けないでいると、央華は俺の肩にキスを落とし腰を掴む。  それだけの仕草で、何度となく身体に刷り込まれた悦びを思い出してしまい、胸が頭が期待でいっぱいになった。 「あっ、ふ……んあぁ……っ!」  その期待を裏切ること無く、奥まで深く突き刺さる屹立を揺さぶられ、内側から与えられる快感に悶える。  央華と密着した腹部に蜜をだらだらと零す俺のが擦れて甘い刺激が加わり、愉悦に支配された。 「ひっ、あっ……あぁっ!」  腰を持ち上げられ突き上げられる。熱い央華の熱に中をえぐられるようで、嬌声が否応なしに漏れた。 「慧菜(えな)に聞こえちまうぞ」  くすりと笑って耳元で囁かれる声にはっとして、口元を抑えた。 「んんぅ、……――っ!!」  央華は言うことと反対に、わざと俺の感じやすいところを探り執拗に刺激してくる。  ぶるぶると首を振って、身を縮めて、その強烈な刺激に耐える。  気持ちいい、気持ちいい――。  それだけに支配されて熱に浮かされる。  敏感なところを繰り返し攻められ、目の前がちかちかするくらいの快楽に打ち震えた。  声を抑えているせいで、ベッドが軋む音や結合部から漏れる水音、央華の浅い息遣いが耳に入り、嫌になるくらい心臓がどきどきした。忘我で行為に夢中になった。 「ん、ふ……ぁん、んンっ!」  ぎゅっと身体を抱き寄せられ、角度を変えて奥を攻められる。  イギリスの血の入った央華は身体が大きいのもあり、苦しいくらいに深くまで届く。  否応なく央華に追い詰められ、必死で縋り付いた。 「んっ、あっ……んぅぅ……っ!」  央華も限界が近いのか、荒く身体を揺さぶられ、背中を反らせて悶えた。 「んぁ……あっ……んん、――っ!!」  ぎゅっと嬌声を掌で抑え込み、ガクガクと身体を震わせ、央華の腹部を白濁した液体で汚した。  甘美な幸福感が全身を包み、享楽の喜びに打ち震えた。  同時に身体の奥で熱が弾け、耳元で央華が息を詰まらせるがわかった。  じんと脳みそまで痺れるような愉悦に身を任せ、ぐったりと央華に寄りかかった。 「はぁ……はぁ……」  吐く息が震え、涙が溢れてきた。  悲しいと言えば悲しいし、虚しいと言えば虚しい。自分が情けなく、簡単に熱に絆される身体がやるせない。  央華にされるがままにベッドに押し倒され、衝撃で息を飲んだ。  そこに唇を重ねられ、舌をねじ込まれる。腔内をじっくりと味わわれるような濃厚な触れ合いに嫌悪感は無いが、息が苦しくて央華を緩く押しやった。  抵抗虚しく、手を獲られて、唾液で濡れる舌を交じ合わせる。  息ができなくて頭に霞がかかるようにぼんやりとしてきた。  初めて彼に求められたのは、蒸し返すような猛暑の日だった。  レッスン終わりに、たまたま慧菜抜きで二人で帰った俺達は、どっちが先にシャワーを浴びるかでじゃれ合うように争っていた。服を脱いでくすぐりあって笑いあって、それで、ギラつく央華の目に気付いたときには壁に押さえつけられ唇を塞がれていた。  何が起きているのか理解するのにしばらくかかった。  人との触れ合いには慣れていない(うぶ)だった俺を試すように、央華が身体を撫で、強く抵抗できないまま、思春期只中の刺激に弱い身体は素直に反応してしまった。  恥ずかしさと混乱であまり良く覚えていないが、前を咥えられ、後ろもいじられた気がする。  2つ年上の彼は普段から同性の俺からしても色気を感じるほどの嬌艶さがあるのだが、欲情した顔は比じゃないくらいで――。  嫌悪感を覚えないのが救いだったのか、そうじゃないのかは良くわからない。  ただその夏の日を皮切りに、俺と央華の関係ははっきりと変わってしまった。

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