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第7話 アイドル
その後、央華とマネージャーの乗る車に合流し雑誌の撮影現場に向かった。
慧菜は、俺と同じ16歳でありながら既に自分のファッションブランドを持っている。自分でデザインした服や小物をいくつも販売していて、中高生をメイン層に人気を博していた。
それに加え圧倒的なビジュアルの良さ。
儚げで可憐でありながら、どことなく近づき難さも感じさせる独特な雰囲気。本人は身長の低さを悩んでいるようだが、それでもその存在感はかなりのもので、写真映りも驚くくらいいい。
央華も央華でイギリスの血の入った彫りが深い顔立ちや、鍛えられた抜群のスタイル、セクシーでクールな雰囲気で魅力的だった。
その二人に挟まれてNeko-Moonlightでセンターを務めている俺は、特筆できるような特徴は無いように感じてしまう。ファンの間や雑誌の謳い文句では王道王子系と良く言われるが、正直自信はなく、それっぽく見えるようにかなり気を使う。
「それじゃあ三人で、そう、もう少し寄ってくださ~い」
のりのりのカメラマンに煽られ、慧菜は俺の腕にべったりと寄り添い、央華は腰に手を回し距離をつめてくる。その間で、なんでもない風を装い顔を作りつつも、内心気まずさが強くなり胃が痛くなってくる。
「いいねぇ。別パターンも……」
央華が俺の肩に両手をまわし掛け顔を寄せてくる。負けじと慧菜が正面に回りぴたりと背中を預けて、俺の頬に手を添えてくる。二人共、距離感がバグってるとつっこみたくなるが、思ったよりもカメラマンの反応が良くて踏みとどまった。それならと、諦めて央華に寄り添うようにしつつ、慧菜の手に左手を重ねてカメラに視線を送った。
バレないように、顔に出さないように、それでいてカメラ写りのいい角度や表情を意識……そんなこんなで撮影が終わった頃にはぐったりと精神的にもいっぱいいっぱいになっていた。
撮影された写真は、かなりいい出来だった。カメラマンや雑誌の関係者にも称賛され、仕事としては完璧。ほっとしてスタジオを後にした。
雑誌の撮影が終わり、続いてレッスンに向かった。来週のミュスタに向けて新曲の歌と振り付けのチェックだ。
この時間はトレーナーさんもいるし、無駄な触れ合いも無い。だから少し安心できる。
とはいえ流石に睡眠不足と身体的疲労で調子が悪く、鎮痛剤と栄養ドリンクで誤魔化しつつ、二人についていくのがやっとだった。個人的な悩みで、俺のことで二人に迷惑を掛けたくない。悔しくて、暗い気持ちになるのを振り切って練習に集中した。
「慧菜、ここ振り甘いよ」
「言われなくてもわかってる」
撮影した映像を見ながら、ダンスのチェック中に央華が慧菜に意見を言うのはいつものことだった。
央華は小学生からジュニアとしてダンスも歌もやっていたのもあり、ネコムンの中では一番スキルや練度がある。
俺も姉と一緒に小学生の頃から習っていたからダンスには多少自信がある。歌はそこまで自信は無いが、評価してもらえている。
慧菜だけが中学でアイドルを始め、そこで歌とダンスを本格的に習い始めたのもあり、特にダンスは苦手意識があるようだった。それでいてモデルとしての歴は小学生からと長いから、自分の魅せ方を良く知っており、浮いているほどではない。
「その前のステップで足がもつれてるから」
「あ、それバレてた?」
経験がある央華が的確にアドバイスし、慧菜がすぐ吸収していく。二人共、相性が悪そうで妙に噛み合うところがある。
それもあって、俺が邪魔してるんじゃないかって思うときが何度もあった。
「ふうくんもっかい行けそう?」
慧菜が振り返るのに微笑み掛け頷く。
「ほら」
と、央華が差し出す手を取って立ち上がる。
この三人でNeko-Moonlightを結成したときから、二人に、このグループに迷惑だけは掛けないと誓った。だから、少し身体が辛いくらいは乗り越えて、このまま新曲発表をやりきらないと。
そう思いつつも、どうしても二人と関係を持って、それをバレないように気を使って何でも無い風を装っているだけで心労はかなりあった。
橋に宙吊りになって感じた恐怖に、目を逸らせないほど強く惹かれているのも事実だった。
「じゃあ行くよ」
音楽の再生ボタンを押して、立ち位置に戻る。
頭から素の自分をできるだけ消して、アイドルとして表の俺だけを壁面の鏡に映す。
大丈夫、まだ笑えてる。
俺はまだアイドルだ。
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