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第10話 アンスリウム

 それから数日後の朝だった。  はっと目を覚ますと、ベッドの上に慧菜がいた。 「えな、なにして……っ!」  後ろを出入りする指の感覚に思わず仰け反る。いきなり入れられたわけじゃない。ほぐれて痛みは無く、快感と異物感が身体を揺らした。 「ぼくに任せて、ふうくん」  甘えるような声がして、すっかり形を示している俺をその小さな口に咥え込んだ。  足を開かされていて、前をしゃぶられながら後ろをぐちぐちと弄られる。 「っ……ふ、んんぅっ!」  すっかり快楽に弱くなった身体は慧菜に高められていく。  シーツを枕を掴んで、声を抑え、劣情に身を委ねた。  止めなきゃ、やめてと言わなきゃいけないのに、もう止めたくないくらい射精感が込み上げてきていた。 「んんぁ、はぁ……だめ、慧菜っ」  イってしまいそうで慧菜の頭に手を伸ばす。  それに触発されたように、俺を潤んだ瞳で見上げながら動きを激しくする慧菜。  吸い上げられ、気持ちいいところを執拗に攻められ、我慢できずに慧菜の口の中に欲望を吐き出した。  どろどろとした液体で、こんなにきれいな慧菜を汚す背徳感に言い知れない興奮を覚える。  またやってしまったという後悔と、全身を突き抜ける快感に涙が滲んでくる。  口が離れ、指が引き抜かれる感覚がして、ティッシュに手を伸ばして数枚引き抜き慧菜に差し出した。 「ごめん、口に……」  なんで俺が謝ってんだよと思いつつも、どんな顔をしたら良いのかわかんない。 「ううん、……ふうくん」  素直に口から吐き出し、その可愛い顔で微笑む慧菜は、俺の足を掴んでぐっと開き興奮を滲ませる熱っぽい視線を向けた。 「ぼくも気持ちよくなりたいな」  淡い水色の部屋着をずらして、蜜を滴らせる屹立をさらけ出す慧菜。 「え、っと……」  断らなきゃ、やめてと……。  そう思うのに、その昂ぶりを入口に擦り付けるようにされて、甘い刺激に脳が思考を止めてしまう。  閉じようとする足を撫でられ、優しく、しかししっかりと力を込めて再び広げられる。  女の子のような見た目で可愛らしくて、だけど慧菜はしっかり男なんだと思わせられる。  慧菜がもう待てないとでも言うように、先端を押し込んでくる。 「あ、まって……ご、ゴムつけてか、ら」  言いながら、自分のバカさ加減にうんざりしてしまう。 「ぼく我慢出来ないよ、中で出さないからさ……ねぇ、いいでしょ」 「俺がつけるから、ね……」  言いながら手探りでベッドサイドからゴムを取り出し、慧菜のものに被せていく。びくびくと脈打ち熱い。  こういうことを言えるなら、断れるはずなのに、申し訳無さや気まずくなるのが怖くて、行為を肯定してしまう。 「ほら、でき……んむ、っ……ふ」  唇を奪われ、ゴムを付けた慧菜がゆっくりと中に押し込まれていく。  央華のより圧迫感もなくすんなりと入ってくる。  キスしながらゆっくりと出し入れされた。  優しく大事にされるような抱き方で気持ちいい。  慧菜の甘い匂いに包まれて、柔らかい唇や舌の感触にうっとりしてしまう。 「ふ、は……あぁ、ん……っ」 「はぁ、ふうくん……ふうくんっ」  唇を離し、俺の名前を呼びながら腰を動かす慧菜。  快楽に蕩ける彼の顔にくらくらするくらい、気分が高揚する。間近で見てもなんて愛らしいんだろう。  慧菜の細い指が俺に触れて上下に擦られた。 「あ、や……まってっ」  後ろと前を同時に弄られ、否応なしに高められる。 「んふ、かわいい……ここ触ったら、ふうくんのおしりひくひくって吸い付いてくる」  耳元でそう囁かれ羞恥で身体が熱くなった。  意識すればするだけ、力んで慧菜を締め付けてしまう。 「ふうくんの中やばい……うねってきもちいい」  いちいちそう言われると、自分の身体がどれだけふしだらか思い知らされるようで、恥ずかしくて、同時に興奮してしまう。  喘ぎ声を噛み殺して、与えられる快感に耐えた。 「はぁ、ふうくん……かわいい、ふうくんっ」  甘えたように名前を呼ばれ、頭がおかしくなりそうだった。 「イっていいよ? きもちいいの我慢しないで」  そんな風に囁かれ、またすぐ絶頂を迎えた。  気持ちよくて何もかもどうでも良くなってくる。  甘い痺れの残る中をゆっくりと慧菜が動き刺激した。 「ぼくもイきたい。もうちょっと、できそう?」  わざわざ俺に確認してくる慧菜がすこしだけ嫌いだ。ノーと言えないのをきっと知ってて言っているのだから。  こくこくと頷くと、慧菜は動きを早めて、腰を打ち付ける。  朝から何度もイって、少しきつくて苦しいのを耐えて慧菜を受け止めた。 「ん、ふ……はぁ、あ……っ」  漏れ出る声を抑えながら、目を瞑って、終わるのを待つ。 「……ふうくんっ、ふうくん」  愛おしそうに名前を呼ばれるとどうしてもドキドキしてしまう。そんなのも押し込んで、できるだけ何も考えずに刺激に身体を任せる。  奥にじわりと熱が広がって、慧菜がぱたりと身体を預けた。 「んふ、きもち……はぁ、ふうくん大好き」  ぎゅうっと抱きついてくる慧菜を撫でて、息を整える。 「ね、ふうくんもぼくのこと好き?」  首筋にキスを落とされ甘えた声で言われる。 「……うん」  頷いてみせると、満足そうに慧菜は笑う。  そのまま、朝、準備する時間まで慧菜はベッドで俺に擦り寄ってきた。  甘えられるの自体は嫌いじゃないのだけど、一方で精神的にすり減っていく感覚があった。  彼と初めてそんな雰囲気になったのは央華よりも早い時期だった。  テレビの企画で使う私服を選んでと言われ、着替えてはポーズを決める彼を俺は見ていた。  一見すると女の子のような姿の慧菜の生着替えに、可愛らしい姿に、どうしても胸が高鳴ってしまっていた。さとられないように誤魔化していたつもりだったが、慧菜にはバレていたらしい。  次第に足をがっつり見せるような際どい服や、挑発するようなポーズをとられ、試すように間近に近寄られた。 「ふうくんかわいい」  なんていって、ベッドに腰掛ける俺を押し倒し、キスをしてきたのは慧菜の方だった。  嫌な気はしなかったが、段々と後悔が強くなった。  同じグループのメンバーとこんな風になるなんてよくないと。  何より、流れや冗談だと思っていた触れ合いが、受け入れる度にエスカレートして止めようがなくなっていくのが怖かった。  一度止めようとして、傷ついた顔をして涙を浮かべた慧菜を見てからは、一層されるがままになっていった。  慧菜のことは好きだし可愛いとも思うけれど、どうにかなりたいわけじゃない。ただかわいい弟や友人という気持ちしかない。  傷つけたくない、泣かせたくない……そう思っているのに気持ちに応えることはできないし、央華とも関係をずるずると続けてしまっている。  俺がそんなんだから良くないっていうのは重々承知のことだったが、自分ではどうしようもできなかった。  弱い自分が嫌になる一方だった。

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