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第11話 夜に
10月下旬の金曜日の夜。
俺達Neko-Moonlightは、生放送のミュージックスターズで新曲をテレビ初披露した。
出演者と観客の反応も上々で、手応えもあった。トークも卒なく、カメラに映るシーンでも笑顔で。
初出演した春よりもずっと成長しているのを感じる時間だった。
マンションに戻り、三人で再度録画していた番組を流して確認した。
最初の俺のソロ、しっかり声が出ている。Aメロまでのダンスも問題ない。流れるように中央に出た央華の色っぽい声とキレのある動きに惹き込まれ、なびく髪の流れさえも計算しているような慧菜の圧倒的な美しさに胸が高鳴る。
サビ前の慧菜の苦手だったステップも本番では完璧に修正され、続くダンスもしっかりと動きが揃っている。
サビのハモリも完璧だ。央華のハイトーンもいつもよりも声が伸びやかで、ため息がもれるくらいに美しい。
ラストサビ前の俺のソロも、自分で思っていたよりも悪くない。
最後はアドリブで慧菜が投げキッスをして、観客席から黄色い歓声が上がる。
黙って最後までみて、ほうと息をついた。
「めっちゃうまくいったね。2人とも完璧すぎる!」
そういう俺に慧菜が抱きついてくる。
「ふうくんも最高にかっこよかったよ」
「ほんと?」
「うん、さすがふうくん。歌もダンスもいつも全力で、笑顔がもーさいっこうにかっこよくてかわいい!」
慧菜にすりすりと頬ずりされながらべた褒めされて、嬉しくて俺も思わず慧菜に抱きついた。
「慧菜もほんとにきれいだったし、歌もダンスも練習よりずっとよかったね」
「えへ、ふうくんに褒められるのが一番うれしい~!」
ライブ後の高揚感でいっぱいの俺と慧菜をよそに、央華はむすっとしていた。
「央華も、いつも完璧だけど、今日はいつも以上に輝いてた」
そんな央華に拳を伸ばしてグータッチを求めるが、腕を組んで深くため息をつくだけだった。
「……央華?」
「まだまだだろ、慧菜のダンスも歌も。俺等についてこれてない」
トゲのある言い方をする央華に、高くなっていたテンションが一気に鎮まる。
「央華のレベルには俺だってまだ」
なんとかフォローしようと言い返すが、低い声に遮られる。
「楓季は自己評価が低いだけで、俺よりダンスうまいだろ。歌だって声もノビもいいし」
実力のある央華に認められるのは素直に嬉しかったが、慧菜のことが忍びなくて胸がざわついた。
「慧菜はまだまだだろ。こんなんで喜んでられるなんて意識低いんじゃないか?」
央華を見つめる慧菜の顔が冷たく、見たこと無いくらい険しくなる。と思えば鼻で笑って、意地の悪い笑顔を浮かべた。
「それ言うならさ、央華だってなにあの態度。先輩に楽屋挨拶すらまともにできないって業界人としてどうなの?」
俺の胸から身体を離し、きつい口調で慧菜が言った。
まずいことになったなと焦ってくる。
「二人とも落ち着こう、ね?」
そう声を掛けるが、にらみ合いは続いていた。
「ぼくとふうくんでいつもカバーしてあげてるのわかんないわけ、ねぇ」
「それを言うなら、ダンスも歌もお前の実力考慮してレベル下げてるんだって、気付いてないわけじゃないよな」
お互いに弱いとこをつつきあって見ていられない。
いよいよふたりとも立ち上がって今にも殴り合いそうな雰囲気になり、間に入って声を掛ける。
「俺らはチームなんだから、お互い助け合って」
「お前はだまってろ!」
央華に押されてソファに倒れ込む。
「ふうくん!」
慧菜が俺を心配して側に寄る。
そしてきっと央華を睨んだ。
「ふうくんになにするんだよ! 怪我したらどうするんだ!」
央華が舌打ちして俺を睨みつける。
どうにか場を収めないととぐるぐる頭を悩ませる俺を慧菜が覗き込み、心配そうに身体を寄せた。
「お前ら距離近いんだよ。ふうくんふうくんってベタベタして、外でも……見てらんねぇ」
その様子を見て央華が吐き捨てるように言う。
「はぁ? 人のこと言えるわけ」
慧菜も相当頭に来ているようで、食って掛かるように言った。
「央華だってふうくんにだけ態度違うくせに」
「んなわけ」
「あは、知ってるよ? 仲いいもんねぇ?」
二人で煽りあっていると思っていたら、話の雲行きが怪しくなる。
慧菜が見せつけるように腰に手を回し引き寄せ、俺の太ももを撫でてきた。
「ちょ、ちょっと! 慧菜!?」
止める間もなく顔が近付き、顎を掴まれて慧菜の方を向かせられる。
「でもぼく達の方が仲いいもんね?」
妖しく微笑む慧菜の顔が近付き唇を奪われる。
驚いて頭が真っ白になった。
ぐっと押しやろうとする手を取られ、角度を変えてもう一度キスされた。
央華の舌打ちが聞こえたかと思うと、慧菜から身体を引き剥がされ、ソファに押し付けられながら唇を塞がれた。央華の舌が入り込み絡められ、羞恥で顔が熱くなる。
「んぅ、ん……んんっ!」
貪るようなキスに息をする間もなくぼんやりとしてくる。
「ふぁ……はぁはぁっ」
やっと唇が離れ荒く息をつく。
やばいことになった。
なんとか誤魔化さないとと思う。
でも、こんなキスをして誤魔化せるわけがない。
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