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第17話 光
初めて演技に触れた時、すっと自分に馴染む感覚があった。
踊っているときも歌っているときにもない感覚。
役のことを考えて考えてふっと一つになる。
その子に支配されるような、身体を明け渡すようなそんな感覚。
きらいじゃなかった。
むしろいつもやっていたことだった。
相手が望む自分。より照月楓季らしい姿。
そんな自分が嫌になる時が何度もあったけど、好きになる瞬間もたくさんあった。
仕事として演技をする機会を貰って、より好きになったと思う。
匡次郎が言っていたように、これは俺の武器で、才能で、命を散らしたいと思う場所なんだろう。
そう、前よりもはっきりと思うようになった。
「ごめんね、忙しいのに時間貰っちゃって」
「いえ! こちらこそ会えて嬉しいです」
その日の夜。撮影終わりに、三浦美晴 という男性と食事をしていた。
彼は俺の好きな映画監督だ。そこまでメジャーな作品があるわけではないが、緻密で感情の機微をよく描いた作品が多く、どれもこれも大好きだった。事務所のパーティーで偶然に出会ってからというもの、彼とは度々話すようになっていた。
「単刀直入に言うと、僕の映画に出てほしい」
三浦さんはそう真剣な顔で言った。
「出たいです!」
考える間もなくそう言っていた。
大好きな人の大好きな映画に携われるなんて夢のようだ。
「ほんとに?」
三浦さんはその瞳をぱちくり瞬かせてかなり驚いていた。
「詳しいことはマネージャーと事務所に確認しなくちゃですけど、俺は出たいです。いっそギャラ頂かなくてもいいので、脇役でも構わないので」
「いやいや、そんなこと。それに主役としてオファーしたいんだ」
「主役……嬉しい」
夢見心地で泣きそうなくらいの言葉だった。
「最初はアイドルとしての印象が強くて、だけど今やってるドラマとか、CMとか見ててさ……楓季くんに頼めるの今が最後じゃないかなって」
三浦さんはそう語りだす。
「正直、うちは予算もそこまで集められるわけでもなくて、前回撮ったのもこだわりすぎて撮影おしてぎり赤字かもってひやひやしたり、そんな状況だから。だからきっとこれから俳優として最前線に行っちゃうだろう楓季くんと仕事できるのは、今を逃したらもうほんと無いかもって」
役者を大勢見てきた監督の彼にそう言ってもらえるのは、大好きな彼にそう認められていることが何よりも嬉しかった。
耐えられなくて涙が滲んでくる。
あぁ、不思議だな。
あの日、死ななくて良かったって思っちゃってる――。
「三浦さんの作品になら出たいですよ。俺がどんな状況にいようと……それくらい好きなんですよ?」
やっとホッとしたように微笑む三浦さんに手を差し出す。
「よろしくお願いします」
あたたかくて大きな手をしっかり握り込む。
食事をしながら聞いた話では、その話は彼が数年構想を膨らませていた切ないラブストーリーだそうだった。撮影は来年からを予定しているらしい。
それまでに、俺はもっともっと輝けるように自分を磨けるはずだ。
その日は、有頂天で悩みも何もかも吹っ飛んでいい気分の一日だった。
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