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第19話 アゲラタム
仕事も少し落ち着き、顔を合わせる機会も増えて、自然とまた求められるようになっていた。
二人とも遠慮が無くなったというか、タガが外れたと言うか。
俺は変わらず受け入れてしまっていた。
そしてその度に、なぜ断れないのかと自分を責めていた。
「ふうくんおかえり」
夕方帰宅すると、今日は仕事のない慧菜がマンションのリビングにいた。
共有されているスケジュールで、もしかしたらいるとわかってはいたが、慧菜は自分のブランドの店を見に行ったり買い物やカフェに行くことも多いからと楽観視していた。
「た、ただいま」
居ることだけならまだ良かったのだが、今日はやけに女の子らしいフリルの付いたミニスカートにレース地の肌の透けて見えるブラウスと、目のやり場に困る服装に身を包んでいた。
「んふ、好きなだけ見ていいのに」
目を逸らす俺の前に来ると慧菜はそう言ってくすくす笑った。
「どう? ふうくんこういう服はいや?」
ひらひらとスカートをなびかせながらポーズを決める慧菜。正直かなり可愛らしかった。良く似合っているし、俺も嫌いじゃない系統の服装だった。
「ま、嫌じゃないの知ってて着てるんだけどね。ちょっとでもふうくんに興味もたれたいの」
何も返せないままでいる俺の身体にぴったりと寄り添い、抱きついてくる慧菜。
これはまた、流されてしまうんだって、なんとなく思う。
慧菜の甘い匂いや肌を撫でる手の感覚、何より視覚的に変な気分にさせられる。
だけどこのままだと、きっとみんなだめになってしまう。一時の気の迷いに出来なくなってしまう。
緊張でドキドキしながらも、そっと身体を引き離した。
「慧菜今日もきれいだね。でも冷えるといけないから、ブランケット持ってくるよ」
あくまでもそういう流れにならないように、険悪にならないように、注意を払いながらこの場を離れようとする。
「いい」
だけど、そう簡単にはいかない。
立ち去ろうとする俺の背中に慧菜が抱きつく。
「ふうくんがあっためて」
甘えた声を出されるのが苦手だって、もう気付かれてるんだろうな。
抱きしめたいのをぐっと堪えて、そっと頭を撫でる。
「慧菜、明日の台本の確認したいんだ」
断り慣れてないせいで、こんなのでいいのかよくわからない。慧菜の反応から不安を掻き立ててるってはっきりわかった。
「そう……」
わかりやすく落ち込む慧菜。
俺のために服を選んで、俺の帰りを待って……。
そんな情景がさっと頭をよぎり、胸が苦しくなる。
「わかった……」
慧菜はそう言うと涙を浮かべながら服を脱ぎ始める。
「え、慧菜!」
色白な素肌が暴かれていくのを制するように手を掴むと、その手を払われる。
以前と同じ、傷ついた顔をして慧菜は眉間に皺を寄せる。
「ぼくじゃ、だめなんでしょ。央華みたいに男らしくないし、女の子にもなりきれない……中途半端な、ぼくじゃ……」
せき止めていたものが一気に流れ出すように、慧菜は泣き出した。
以前からなんとなくは察していたが、言葉そのままの悩みを抱いているのだろう。いつもの気丈で自信に満ちた彼の弱い部分。
「慧菜は慧菜だよ。そのままで充分魅力的」
咄嗟に言ってしまった言葉に偽りは無いが、少しだけ後悔した。
「でも、ふうくん……ぼくをみてくれない」
涙で濡れた大きな瞳が弱々しく歪められる。
「ふうくんに好きになって欲しい……ふうくんが好きなぼくじゃなきゃいやなの」
「好きだよ。でも」
ぱっと顔が近づき、首に手を回され唇を塞がれる。
涙で濡れた唇は震えていて、少ししょっぱい。
「言わないで……それ以上何も言わないで」
踏み出そうとした足をくじかれ、また引きずり込まれる。
彼を傷つけずにいられるなら、それでいいんじゃないか?
慧菜に対しても、俺自身にも向き合えてないんだ、俺は。
「ん、ふ……っ」
唇を重ねて、何度も吐息を混じり合わせると頭がぼうっとしてくる。きもちいい。
好きを知らないだけで、本当は慧菜のこと好きだったり……したら、どんなに楽だろう。
慰めたくて抱きしめようとすると、慧菜はずるずるとしゃがみ込み、俺の膨らみに手を伸ばしていた。
震える手でベルトを解いてズボンをおろすのを、黙ってみていた。泣き崩れる慧菜が哀れで、どうしたらいいのかわからなかった。彼を思って止めたかったけれど、それでまた拒絶されたと思わせるのは酷な気もしてしまった。
慧菜に弄られて形を示し始めるそこを、小さな口が包み込む。
「っ……ん」
わざと見せつけるように舌を這わせ、淫猥な姿に身を堕とす慧菜。
はだけた服や、涙ぐむ目元も相まって言い知れない興奮を掻き立てた。
大概慧菜に好かれるような人間でもない。欲に弱いだけなのかもしれない。
こんなことさせて、何が傷つけたくないだ。
こんな姿に興奮して。
「ふうくん、すき……すき」
根本から先端まで何度もキスを落としながら、そんな風に囁く慧菜。弱い先端の裏側を舐め上げられ、嫌でも興奮が高まる。
深く奥まで咥えこまれ腰が引いてしまうのを抑え込まれ、しゃぶられる。
「ぁ、ん……んンっ」
狭い口内につつまれ、あっという間に果てそうになる。
こんなことしなくたって、慧菜は充分魅力的で、頼りになって、もう好きなのに。
俺なんかに認められなくても、大勢のファンが君を崇めるくらいに好いているのに。
堂々と自分をさらけ出す姿に勇気を貰っている人も居るだろうに。
俺なんかに媚びなくたって。
「ま、って、でちゃ……っ、んあぁっ」
口から引き抜かれ手で扱かれ、我慢も虚しく白濁液を吐き出していた。
慧菜の唾液で濡れる口や可愛らしい顔を汚してしまう。
「はぁ……はぁ、慧菜、ごめ」
罪悪感も相まって袖口で拭おうとする手をぎゅっと握りキスされる。
「もっとふうくんでいっぱいになりたい」
そのまま手を握られたまま、下腹部に太ももに柔らかい唇があてがわれた。
うっとりと見上げてくる惜しげもない美貌に呆然としてしまう。
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