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第20話 月の裏は傷ついて
「慧菜……」
くらくらするくらいの興奮が胸を焦がす。けれど少し落ち着いてほしくて、落ち着きたくてしゃがみ込み慧菜を抱きしめた。
だめだ、これ以上ペースに飲まれたら、またいつもと同じになってしまう。
そう思うのに。
体重を預けられそのまま押し倒され、ズボンを引き抜かれてしまい足を持ち上げられる。
「や、まって……んぁっ!」
制止することもできず慧菜が後ろの穴に舌を這わせ、ぞわぞわとした感覚が背筋をのぼる。
「あっ、汚いから……だめっ」
がっちりと足を掴まれ身動きが取れない。
入口を舐められ、舌先が入ってこようとする。同時に前を扱かれてしまえば、刺激に耐えるのでいっぱいになってしまう。
「あぁっ……やぁっ」
舌が入り込み中を探られる。何よりもあの綺麗な子がこんなことをしていることに、興奮が治まらなかった。
だめなのにきもちいい。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、頭が真っ白になる。
こんなことさせたくないのに、また流されてる。
「……はは、やっば」
ただでさえ羞恥心でいっぱいなのに、不意打ちで央華の声がして全身がかっと熱くなった。
そりゃリビングで堂々とこんなことしてたら、そうもなるとしても、なんでこんなタイミングでと己の不運さに泣けてきた。
とにかく、やめてほしくて慧菜に手を伸ばし、身体を揺すって抵抗するが、歩いてきた央華に抑え込まれる。
「いや……、やめて、みないで……っ!」
慧菜に腰を大きく持ち上げられ後ろを舐められながら、前を擦られガチガチにしてる。
そんな姿を央華に見られるなんてと、ややパニックになりはっきりと抵抗していた。
「ふ、やらし」
おかしそうに央華がそう言って見下ろす。
慧菜はわざと音を立てて舐めて、先走りを滴らせる屹立を扱いた。
「やだっ、慧菜……やぁっ!」
涙を零しながら抵抗をする。
気持ちよさが強くなるにつれて、心臓がえぐられるくらい痛くなる。
行為の度に遠くの方に行ってしまう気持ちが、今日はすぐそこにある気がする。
嫌だ。
そう思うことの悲痛さは想像以上だ。
「いやっ、イきたくない……やめて、あぁっ!」
唾液で濡れたそこに指が入り込む。
中を探られ、弱いところをすぐ見つけられてしまう。
抵抗できない快感に確実に絶頂へと導かれる。
身体と心が別になったみたいだ。
苦しい。怖い。
こんな風になりたいわけじゃない。
仲間として友達として付き合いたいだけなんだ。
俺が抵抗できずにここまで二人を壊したんだ。
自分が傷つくのが怖くて二人を傷つけたんだ。
「いや、やだっ……やぁ――っ!」
涙がぼろぼろ溢れてくる。
なのに身体は気持ちよくて、簡単に昇りつめて、一際強い快感が全身を突き抜け熱を吐き出す。
「はぁ、あぁ……んぅっ」
強烈な快感と同時に虚しさと絶望感が一気に押し寄せる。
「ほら、お先どーぞ」
央華がポケットからゴムを取り出し慧菜に投げ渡す。慧菜がつける間に央華がローションを肛孔に塗りたくり指を出し入れしていた。
「い、入れるのいや……あ、央華、やめてっ」
できるだけ嫌な顔をするように意識しながら頭を振る。
指を入れられるとどうしても快楽に染められた身体はひくついて、さらなる刺激を求めて切なくなる。
「なんで? 楓季、一緒にきもちーことしようよ」
央華に服をたくし上げられ、乳首をくりくりといじられる。
「はぁっ、ん……だめっ、だめ」
中の気持ちいいとこと一緒に刺激されると簡単にその気にされてしまう。
悔しくて、必死に堪える。
「ふうくん、央華じゃなくぼくで善がって」
ずるりと指が引き抜かれ、慧菜の熱い昂ぶりが押し入ってくる。
「あぁ……んぁっ!」
身体がびくりとはねてのけぞる。
その身体を押さえられて、央華が胸を弄る。
慧菜が後ろを突いて、気持ちよくて気持ちよくて頭がぐちゃぐちゃになる。
嫌がらないとと思いながらも感じてしまう。
ぼんやりと匡次郎を思い出す。
俺の武器にできてない、まだ、ぜんぜんだめだ。
涙が滲んできて溢れた。
演技だと思って自分を守れるほどまだ役者じゃない。
向き合おうとすると胸をえぐられる。
怖くて思考が止まる。
苦しくて涙が出る。
「やぁ……っ、んっ、あ……あぁっ」
身体は快楽に従順だった。
「ふうくん、すき……かわいいっ」
慧菜の気持ちよさそうな顔が綺麗だ。
彼はいつも優しく抱いてくれる。言葉でいじめてくるけれど、傷つけたくないみたいに優しく優しく。
それが好意を愛情を感じさせて、たまらなく満たされる。
彼の気持ちに答えられたら、縋り付けたらどれだけ満たされるのだろう。
「楓季、口あけて」
央華の余裕なさげな顔もあだっぽい。
口にあてがわれた央華のを素直に口をあけて含む。大きくて全部は入らない。
髪の毛を梳かれ、頭を撫でられた。
やや荒くて、いっぱいいっぱいになるセックスのあとに優しくされると胸が締め付けられる。
二人のことは決して嫌いなわけじゃない。
むしろ大好きで大好きで、だからこそ、俺に執着したり、俺でおかしくなったりしてほしくない。
二人を好きでいる心の苦しみから開放されたい。
そう、俺がおかしくなりそうなんだ。
おかしくなりそうで怖くて、離れたくて。
それだけ。
傷ついてほしくないなんて建前でしか無いんだ。
ただもう苦しくて、終わりにしたいんだ。
バレて仕事に支障をきたすのが怖い。
気付かれないように気を使ったり、気持ちを伺ったり……そんなことがもう苦しくてしかたがない。
俺は二人が望むような人間じゃない。
好きになってもらえるような人間じゃない。
楽になりたい。
涙がとめどなく溢れてくる。
慧菜の腰つきが早くなり、奥で果てる。
口から央華が引き抜き、慧菜も身体を離し、しばし荒く息を吐く。
「ふうくん、へいき?」
少し冷静になったのか、慧菜が心配そうに顔を覗き込む。
平気なんかじゃない。
苦しい。
心が苦しい。
もう終わりにしたい。
悩むのも演じるのもやめたい。
無理だ。
頬を撫でる慧菜の手が暖かくて、優しくて、でも今は触れられたくない。
もうめちゃくちゃだ。
なにも考えたくない。
央華が俺の右足を持ち上げて入口に擦り付ける。
こんな状況で続けるのかよと、思って、でも、それすらどうでもよくて。
腕で顔を覆って、ただ泣いていた。
早く終わらせたいとじっとしているが、入ってくるわけではなく、少しして足をおろされ、顔を覆う腕を握られた。
「楓季」
央華が名前を呼ぶ。
黙って、鼻をすすっていると頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「楓季……ごめん」
央華はそう一言いい、ズボンを履き直すとその場を立ち去った。
残された慧菜がぎゅっと手を握った。
「ふうくん……意地悪したよね、ごめんね」
慧菜の声も上擦っていて、泣いているようだった。
虚しさが襲って吐きそうなくらい気分が悪い。
ずっと耐えてきたのに、とうとうやってしまった。
ぜんぜんうまく二人をあしらったりできなかった。
きっと深く傷つけた。
だけど、そんなこと気にしてる余裕もないくらいに自分が傷ついていた。
どんな言葉で言い表せるのかもわからない。
今まで直視しようとしてこなかった痛みに喘いで、二人を傷つけた罪悪感でいっぱいで。
央華がもどってくる足音がした。
「タオル持ってきた。顔と身体と、拭こう?」
そう優しく声を掛けて、背中に手を差し入れ上体を起こされる。
しゃくりあげながら黙って彼の持ってきたタオルを受け取り顔にあてがった。
「もう、やめたい」
もうどうにでもなれと、勢いで口に出していた。
「ふたりのこと大好きだけど、もうやめたい……っ」
震える声で感情的になって、いつもの俺じゃないみたいだった。
「楓季……話はおちついてから」
央華が背中を撫でて優しく囁くのを遮って続けた。
「俺は……ネコムンが大事だから、二人がいたらもっともっと上に行けると思うから」
頭も心もぐちゃぐちゃで、何を言ってるのかよくわからない。
ただ、もう遅いかも知れないけど、手遅れじゃないって思いたかった。
「俺が悪いんだってわかってる……断れなくてずるずるこんなことして。元に戻れないとしても。やり直したいんだ……友達として、ふつうの関係で、仲間として」
俺のわがままでしか無いのかもしれない。
それでも抵抗してみて初めてわかったんだ。
俺は嫌だったんだ。
こんなこと嫌だったんだ。
二人を好きでいながら欲で汚して――。
そんな醜い自分を見たくなかった。
「ごめん、こんなこと、言う資格ないのに……」
言うだけ言って服を直して外に飛び出していた。
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