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【慧菜】1本のバラ
慧菜
ママは、生まれたばかりのぼくをみて天使だと思ったって。
何度も何度も繰り返し聞いた。
大事に大事に育ててくれた。
ぼくを尊重して、ぼくの好みのまま受け入れてくれた。
女の子らしい服が好き。
ピンクが好き。
可愛い仕草や女の子らしさが好き。
それで、まわりの大人が喜んでくれるのも好きだったな。
昔はね。
今はちょっと違う。
ぼくは女の子の格好をしていたけれど、女の子になりたいわけじゃない。
女の子の仕草を真似ていたけれど、女の子らしい振る舞いが好きだけれど。
決して自分を女だとは思っていない。
むしろ普通に初恋は女の子だった。
女の子同士で遊びでキスする。
それにまざって初恋の子とキスをした。
でも、それってただの遊びだって、つまり女の子として見られてるのって。
もちろんそういう格好をして、女の子として見せてはいるけど、男なのにって。
そんな誰からも理解されない悩みを抱えながら生きていた。
思春期でよくあるからかいは、はいはいって感じでスルーできたけど。
思ったより弊害は大きい。
好きな子に好きって言っても、まともに相手されない。
されても男な部分を出すとげんなりされた。
人の印象はほとんどが見た目で決まるんだって。
そりゃ、ぼくがこんな格好してるせい?
だけど、ぼくは好きなことを好きでいるだけなんだ。
雑誌のモデルで時々男ものの服も着た。
もちろん似合うし、かっこいいよ。
だけど、違和感すごいし、テンションも上がらない。
可愛いからって男に告られることも何度かあったけど、正直無理って思った。
女のかっこしてんだから、その方が辻褄あってるって、どんな論理だよ。
そう思っていたのに。
なんでか、ふうくんだけは特別だった。
全部、全部、特別だった。
「慧菜すっげーかわいいからさ、照れる」
照れてはにかむ顔にきゅんってしちゃう。
なによりふうくんだけは、ぼくをぼくとして見てくれた。
レッスンの時、更衣室じゃなくてトイレで着替えるのが当たり前になっていたのに、「めんどくさくない?」とかいってさ。
女の子みたいに扱ったり、変な目で見るわけでもなく、ただ思ったことを言ったみたいな口調だった。
ライブ終わりにテンション上がったままに抱きついてきたり。
極めつけはそう、
「慧菜は慧菜だよ」
いつもそう言葉にしてくれる。
それで、どれだけ救われてるかなんて気付いて無かったんだろな。
ぼくを認めてくれてるんだって思わせてくれた。
ぼくがぼくなのは当たり前だけど、ぼくがぼくでいるのは難しい。
だけど、彼はぼくをぼくでいさせてくれる。
側にいると楽。
甘えたり、困らせたり……最初は楽しんでるだけだった。
気まぐれにキスしてしまって、ぼくも自分がまたわからなくなった。
だけど、男を好きになるわけ無いって思ってたのも馬鹿らしくなるくらい、ふうくんはあっという間に特別になった。
彼の好みの服を着て、とびきり煽って、そんで照れて真っ赤になってくれるのがかわいい。
わがままに振り回されてくれるのが、嬉しくって。
困って、照れて、断れないで引きずり込まれていくふうくん。
すぐわかったよ。
ぼくをそういみで好きにはなってないよね。
でも優しいから、嫌と言えないから。
漬け込まれるんだよ。
そんなんだから、誰にでもいいふうに使われちゃうんだよ。
悔しくて、でも、それでもいいから見ていてほしかった。
ぼくをぼくでいさせてほしかった。
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