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【匡次郎】雪下で咲きたる火の花よ エピローグ

 以前と同じホテルを取っていた。  二人で部屋にいると出会った頃のことを思い出す。  弱って泣いていた楓季は、今はもうどこかへ影を潜めていた。 「ほんとに悪かったな、次はもっと楽しいことをしよう」 「うん。でもね、こんな言い方したらおかしいかもしれないけど、嬉しかったよ」  ベッドに腰掛け微笑む彼は本当に綺麗だった。  見た目が整っているのは言うまでもないが、この子は心まで綺麗なのだと思わされる。  こんな子を助けられたなら、少しは僕も許されるかもしれない。  雪さん、あなたを支えてあげられなかった埋め合わせになるのかもしれないね。 「匡次郎のこと知れて嬉しかったよ。だから、申し訳ないとかそういうのは、要らないから。むしろ、嬉しかったんだよ、本当に。ここまで話してくれるなんてさ」  楓季は微笑んだ。屈託のない笑みにこちらまで頬が緩む。  彼の横に行き、隣に腰掛けた。  窓の外では雲間から光の筋が地上に降り注いでいた。   人に自分の身の上を話すなんて思わなかった。  雪さん以外に心を開くことはほとんどできなかったし、人間が嫌いだった。誰のことも信用なんてしてこなかった。  それが、それなのに、楓季は何かが違う。 「匡次郎って本当に綺麗だよね」  覗き込むようにして僕を見つめる楓季と目が合った。 「口説いてるのか?」 「どうだろう。きっと今の俺じゃ、匡次郎を支えられるほど強くないよ」 「強いよ。お前は、今ここにいるじゃないか」 「そうかな」  肩をすくめて微笑む楓季。  僕が彼にしたことなんて、ほんとはほとんど無い。  乗り越えて前に進もうともがいていたのは、楓季自身だ。  だから、きっと彼の強さは疑いようもない事実だ。 「でもまあ、子どもに手を出すのは法に触れるからな。こんな爺さんじゃなく、同世代とするものだよ。色恋ってものは」 「じゃあ俺が大人になったら口説いてもいいんだね?」  いたずらっぽく笑う楓季の頭を小突いて立ち上がった。 「冗談はそれくらいにして、食事にでもいこう」 「匡次郎食べれるの?」 「あぁ。江戸に来て寿司を食べないのは野暮ってもんだろう?」  なぁ、雪さん。まだ待たせてもいいかな?  シュウと一緒に待っててくれるかな。  それくらい許されるだろう。  あんたは先に行っちゃったんだから。  そっちなら誰も死なないんだろう?  きっとひとりじゃないよな。  もうしばらく会えないけれど、どうかそこで穏やかに過ごしていてくれ。  僕は、まだもう少し、ここでもう少し、生きてみようと思うから。

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