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【慧菜×楓季】暁に咲くレディ・ブルー 1
ifで慧菜と楓季が付き合うお話です。
匡次郎や央華は蚊帳の外ですのでお気をつけください。
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「ふうくん、ふうくん」
慧菜の甘えたような高い声に名前を呼ばれる。
目を開けると、可愛らしい顔で微笑む姿が見えた。やや火照って赤くなった頬や潤んだ瞳が余計に彼を魅力的に見せている。
この際、認めてしまうと、俺は慧菜の顔立ちや姿に惹かれている節が確かにある。彼が男であることを差し引いても(いや、むしろそうだからこそなのかもしれないが)、俺が見知っている人の中で群を抜いて愛らしい。
「ふうくん、かわいい」
悪戯っぽく目を細めて、ミルクティー色の髪の毛を耳にかける仕草一つですら完璧に見える。
そんな彼に愛されることの充足感を知らなかったわけじゃない。ただ、失ってから初めて寂しさを覚えることもあるわけで。
失ってから――。
そのはずなのに、もう慧菜との関係は一度終わったはずなのに、なぜだろう。身体の奥に感じる彼の存在感に意識が向かい、その熱と圧迫感に思わず口から嬌声が漏れ出した。
「すご、ひくひくって締め付けてくる」
可愛らしい声で煽るような事を囁いて、より深い所を刺激される。
羞恥と快楽の間で揺れながら、どうしようもなく彼のことを求めてしまう自分がいた。
なんでこんなことになっているのか理解が追いつかないけれど、今はいい。ただ刺激に任せて、欲に流されて、身体の奥で燻り続ける熱を鎮めたい。
「慧菜、そこいいっ……あ、もっと、あぁっ!」
腰を掴む彼の細い腕に縋り付いて、あられもない声をあげて、ただ肉欲だけが頭を支配していた。
「んぁ……ぼく、もうっ」
限界が近いのか慧菜の動きが激しくなる。
「俺も……あっ、あ! イくっ、慧菜……イっちゃう!」
頭が真っ白になって、快感が身体を突き抜ける。
荒く息を吐きながら、恍惚とした慧菜の表情をぼんやりと眺めた。
色っぽい彼の瞳から目を逸らせずに、乱れた髪の毛を直そうと手を伸ばす。するとその手は優しく微笑む彼をすり抜け、空を握る。
なぜと考える間もなくそのまま視界はぼやけ、聞き慣れたアラーム音が耳元でうるさく鳴り響いた。
「――!」
枕元のスマホを手探りで探してアラームを止めた。
あたりはまだ薄暗く、カーテンの向こうから鈍く朝の光が漏れ出していた。
そこは俺の部屋で、他に誰もいる気配もない。当然、慧菜がいるわけもない。
深く息を吐いて、もう一度布団に潜り直した。
どうやら夢を見ていたようだ。やけに、リアルな感覚の、それも誰にも話せないような夢だった。
慧菜と央華と離れて暮らすようになって半月ほど経った。
仕事や学校の忙しさで誤魔化していたものの、どうにも最近満たされない欲求に苦しめられるようになっていた。
それもそのはずで、数ヶ月もの間、頻繁に二人から身体を求められ続けていたのだから仕方ないと言えば仕方ない。
それにしたって、こんなにもはっきりとした夢を見るのは初めてだった。
どうしても、もやもやとしてしまい、そっと手を伸ばして自分に触れた。
「……っ、うそ」
そこでじっとりと下着が濡れているのに気付いた。
いくら欲求不満とはいえ、夢でこんなになるなんて。
しかもよりによって慧菜の夢で。
夢は自分の深層心理を映し出すと言うけれど、まさかまた彼に抱かれたいと、そう望んでしまっているんだろうか。
そんなのダメだ。そう、自分で決めて離れたのだから、今更――。
「おはよう、ふうくん」
「お、おはよ」
その日の打ち合わせで慧菜と早速顔を合わせることになった。
意識してはいけないと思う程、夢での光景がちらついてしまった。
担当者が来るまでの間、別件のオーディションのための台本を確認しながらも、どうしても視界の端に映る慧菜の姿に気を取られた。
「央華、見て。これ可愛くない?」
目の前の席に座り、隣の央華にスマホの画面を見せる慧菜。今日は先に別の撮影があったからか、ふんわりと髪の毛を巻いていた。もこもことしたボア生地の白のトップスも彼のイメージ通りで、よく似合っている。
これだけ長い事そばにいるのに、いつだって身なりを整えて、可愛らしい姿でいる慧菜。そんな慧菜に好かれていたことに対する嬉しさが無いわけじゃなかった。
自分で拒絶しておきながら、こんな風に彼を見てしまう自分の浅はかさが心底嫌になる。
「ふうくんも見る?」
ちらりと盗み見る瞬間に目が合い、思わず心臓が跳ねた。何でも無い風を装いつつも勝手に、ひとりでに動揺してしまう。
頷くと慧菜は席から立ち上がり、ぐるりとテーブルの周りを歩いて俺の横にやってきた。
淡いピンク色のタイトなミニスカートからは華奢な足がすらりと伸びている。
「これ、子猫の動画なんだけどね」
慧菜に差し出されるスマホの画面を見ながらも、近くに寄った彼の甘い香りにくらくらとしそうになった。香水なのか化粧品の匂いなのかはわからないけれど、慧菜の雰囲気によくあっている。気付かないふりをしつつも、近い距離に思わず鼓動が早くなってしまった。
いつまでもこんなじゃいけないのに。
ただの友達でいたくて、こんなことで悩んだりなんてしたくないのに。
笑顔を貼り付けながらも、頭の中では夢で見た光景が浮かんでは消えていた。
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