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第4話 巳影

 翌日、春斗は数日振りに街を訪れていた。  今日は七瀬の遣いで、薬包紙などの備品を調達に来たのだ。忘れないように書き留めてきたメモを確認し、全てが揃ったのはちょうど昼頃だった。 「里緒と菜緒に甘味でも買って帰ってあげようか」  春斗は目の前の団子屋に入り、餡団子を四本包んでもらう。  里緒と菜緒は餡子が大好物だった。きっと喜んでくれるだろうな……春斗は可愛らしい二人の笑顔を思い出して一人微笑んだ。 「お兄ちゃん!」  店を出てすぐに後ろから声を掛けられ、春斗は振り返る。  以前、植物庭園で出会った巳影だった。 「巳影くん、奇遇だね」 「うん! お兄ちゃんはお買い物?」 「うん、ちょっと頼まれものをね」  巳影は、「会えて嬉しい!」と春斗の周囲をくるくると回る。何とも歩きにくいが、可愛らしいので特に咎めることもしない。  それから、お腹が空いたと言う巳影に誘われて、近くにあったうどん屋に入ることにした。  注文した品が届くと、巳影は勢いよく食べ始める。  春斗は、腹の音で自身の空腹に気が付き、箸を手にした。  食事中、巳影と春斗の会話は弾み、小さな弟ができたようで春斗も楽しく過ごしていた。 「美味しかったね! また来ようね!」  巳影は空腹が満たされたのか、先程よりもいっそう元気そうだった。    そんな出来事から、数日後、春斗が再び街へ行くと、また巳影と出会った。  不思議なことに、以降、春斗は街に出向く度に、巳影と出会うことになった。  こんなにも偶然が続くものだろうか。と思わないわけではなかったが、無邪気な巳影を見ると、そんな些細な疑問はたちまち頭の隅に追いやられてしまった。  そんなある日の昼下がり。春斗はまた巳影に遭遇した。  珍しく元気がないように見え、春斗は首を傾げた。 「お兄ちゃん……」 「どうしたの?」  聞くところによると、最近身体の調子が良くないと言う。  寒気と倦怠感を訴えている。両親は例のごとく帰ってこないらしい。  春斗は迷わず巳影に言った。 「それなら、うちにおいでよ。七瀬さん……屋敷の主人が薬を煎じてくれるから」 「いいの?」  どこか不安げな様子を見せる巳影に、笑いかけ手を引いて屋敷まで案内した。  縁側の門の前に案内すると、巳影が足を止める。 「どうしたの?」 「ねえ、門を開けてくれる?」  縁側に通じる門は簡易的なものであり、然程重たくはない。子どもの力でも簡単に開けられるはずだ。  だが、巳影はその門を開けてほしいという。見知らぬ場所に来て緊張でもしているのだろうか。  春斗は、疑問に思いつつも、巳影に代わって門を開けた。

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