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第5話 正体
春斗が先に入ると巳影は後からついてくる。
そして……振り返ると巳影は不敵に微笑んでいた。
常とは異なる巳影の雰囲気に春斗は嫌な予感がした。
「……やっと入れた」
「え?」
「この時を待っていたんだよ」
そう言うと同時に巳影の姿が歪み、黒い霧が一帯に立ち込める。その霧が晴れると、そこには三メートル程はあろうか、暗緑色の大蛇が姿を現した。瞳は赤く燃えるようだった。
「え、な、なに……」
驚き言葉を失う春斗に大蛇が言う。
「我は邪神、大蛇の巳影だ。ずっとこの時を待っていた。春斗、君のおかげで結界の中に入ることができた。礼を言おう」
巳影の声は全身に響くような、地響きとも言えるようで周囲の空気を震わせる。
「え……あの、巳影くんなの?」
「ああ、そうだ。さて、神棚はどこにある」
巳影は巨体をずりずりと這わせ、屋敷に近づく。
「ほお、なんとも頑丈な結界だ。……だが、力では我が勝る」
そう言ったと同時に、巳影は鎌首を持ち上げ、全身で屋敷に体当たりをした。
屋敷が鈍い音を立てる。
結界の効果か、崩れるには至らないが、あと数回もすれば屋敷に被害が出るだろう。
「や、やめろ! 何が目的だ!」
「ははは、お前は何にも知らないんだな。ここの神棚に神鏡があるだろう? あれを壊したいのだ」
「神鏡?」
「ああ、あの神鏡は土地を守護する上級神にのみ与えられるものだ。あれがある限り、我には自由がない。あれさえ無くなれば街を壊そうが人を食おうが自由なのだ!」
巳影は大口を開けて笑う。
再び屋敷に体当たりをしようとした時、突如強風が吹き荒れた。
「我の屋敷を荒らすのは何者だ!」
七瀬だった。
しかし、いつもの姿ではない。
夏に土地神祭りで見た、白い着物に銀に輝く袴。長い羽織が風に靡いていた。
七瀬の厳しく怒気を含んだ表情に春斗は圧倒される。
何という威圧感だろうか。
春斗は恐怖を覚え、身体が勝手に震え上がる。
空気の圧迫で呼吸もうまくできなくなった春斗は蹲ることさえできない。
七瀬の周囲には風が渦を巻き吹き荒れていた。
「「春斗様!」」
その時、七瀬の眷属である里緒と菜緒が現れた。
二人は、手を繋ぎ両手を大きく広げて、春斗を守るように前に立つ。
すると春斗の周囲は風が落ち着き、七瀬の怒気による圧迫感は随分と柔らかくなった。
「春斗様はここから動かないでください」
いつにない二人の真剣な表情に、春斗は静かに頷いた。
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