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第9話 執行

「七瀬よ。申し開きはあるか」  老人とは到底思えない、太く、どこまでも響く声だった。  七瀬は頭を垂れたまま答える。 「いいえ。ございません」 「そうか。そなたは事もあろうか邪神を神域に入れ、神鏡をも破壊させた。その罪は重い」  七瀬は、びくりとも動かない。 「しかし、活動的になっていた邪神を葬ったのもそなたじゃ。今回の騒動の一部始終を確認した。その上で判決を言い渡す」  七瀬は、わずかに顔を上げる。 「百敲(たた)きの刑と処す。しかと受けよ」  七瀬は何も言わずに手を突き、深々と頭を下げた。  少し離れた木の陰から様子を見ていた春斗は、何が起こっているのか理解に苦しんでいたが、里緒と菜緒の表情を見て、事態はあまり良くないのだと悟った。 「ねえ、どうなったの? 七瀬さんは大丈夫なの?」 「はい、極刑は免れました。ただ……百敲きというのは身体的にかなり辛いものです。それに、大蛇に噛まれた傷も心配です」  菜緒も里緒も表情を歪めて俯く。  七瀬に視線を戻すと、七瀬は上半身の着物を脱ぎ、地面に四つん這いになるように手をついていた。  その横には、屋敷に現れた役人のような男性。手には鞭のようなものを持っていた。 「彼は正伸(せいしん)様です。大御神様に仕える第一神官で、この裁き処の責任者且つ執行人です」  補足するように菜緒が小声で言う。  正伸は手にした鞭を大きく振り上げると、七瀬の背に振り下ろす。  それは激しく音を立て、七瀬の背に痣を作った。  幾度となく打ち付けられるそれは、七瀬の皮膚を切り裂き、鮮血がにじみ出る。 「くっ……」  七瀬は歯を食いしばって耐える。その表情は苦悶に満ちており、春斗は直視することができなかった。 「七瀬さん……」  思わず駆けつけようとした春斗を里緒と菜緒が慌てて引き留める。 「離して!」 「だめです! これは大御神様がお決めになったこと。これでも最大の譲歩をされているんです!」  春斗は暗闇のどん底にいるようだった。  気づけは、執行が終わったようで、七瀬の背を打つ音は鳴り止んでいた。  七瀬は立ち上がることができないのか、四つん這いのまま肩で息をし、動かない。  正伸は、七瀬に向かって一礼をすると、無表情でその場を後にした。  大御神は、七瀬を見下ろし「神鏡については後日改めて知らせを送る」そう言い残して、踵を返した。

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