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第12話 走り出す

「さあ、春斗ちゃんが決めるのよ。七瀬様を助けられるのは春斗ちゃんだけ。でも、そのためには、春斗ちゃんあなたが神力をもち、七瀬様に与えること。これしか方法はないわ」  九重の言葉に春斗は目を見開いた。 「俺が神力を? そんなことができるのですか?」 「ええ、春斗ちゃんの交渉力次第だけどね」 「…………やります! 七瀬さんを助けられるのなら。寿命なんて無くなってもいい。それに、七瀬さんが元気になって、俺の寿命がなくなれば、ずっと側にいられるということですよね」  春斗は、小さな光が見えたようで、身体にじわりと力が戻るのを感じた。 「……あなたと七瀬様の思い出の場所。そこへ行きなさい。そうすれば、きっと導いてくれるわ」 「思い出の場所……」  桜の丘だ! 春斗は九重に深々とお辞儀して感謝を述べた。 「ふふ、お礼はいいから、行きなさい。七瀬様が待ってるわよ」  温かな笑顔に見送られ、春斗は走り出した。  桜の丘とは、七瀬と出会ってしばらくしてから二人で行った思い出の場所だ。二人の想いが通じ合った場所でもある。  その桜の花はとうに散り、新緑の葉が瑞々しく輝いていた。  春斗は、何かに導かれるように桜の樹に近づき、その太く堂々とした幹に両手で触れる。  すると、桜の樹が発光し、春斗は突然の浮遊感に驚き目を閉じた。しかし、すぐに足は地面に付き、身体が安定する。  目を開くと、そこはあの神殿の小さな鳥居の前だった。  神殿を目にした春斗は迷わず神殿の前へと駆け出した。 「誰か! 誰かいませんか?!」  神殿に向かって大声で叫ぶ。何度か声を上げると、玉砂利を踏みしめ、人が近づいてくる気配がした。 「何ですか、騒々しい」  七瀬の刑を執行した正伸だ。 「突然申し訳ありません。七瀬さんの体調が良くないのです。どうかお力を貸していただけませんでしょうか」  春斗は、頭を下げて懇願する。 「それは自業自得であろう。自身が招いたものだ。そのせいで消滅するのであれば、それが天命なのであろう」  その声は冷たく春斗を切り捨てる。 「違います! あれは俺……私が招いたことです。責任は私にあるのです! お願いします。七瀬さんを助けてください」 「ならん、ならん。帰りなさい」 「お願いします! 大御神様に会わせていただけないでしょうか」 「大御神様はお忙しい。お前なんぞに構っている暇はない」  もう話すことはない、と言うように踵を返す正伸を慌てて追いかける。 「お願いです! 七瀬さんを助けたいんです!!」 「ええい、うるさい! 帰れと言っておろう!」  それでも諦めないと、春斗は縋りつく。  その時、ザっと風が吹き抜け、春斗は空気が重く張り詰めるのを感じた。

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