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第13話 覚悟
正伸は神殿に向かい姿勢を正し礼の姿を取る。
春斗も慌ててそれに倣った。
「何の騒ぎだ」
「はっ、この者が七瀬様を助けてほしいと騒ぎ立てております」
正伸は頭を垂れたまま申し上げる。
「……ほお。七瀬は強い邪気に侵されておる故、それは間もなく全身に広がるだろう……もう助からん」
大御神の言葉に、春斗は顔を上げる。
「だめです! 絶対に助けたいんです!」
「大御神様の御前だぞ! 無礼であろう!」
正伸が横で咎めるが、大御神はそれを遮る。
「よい。そんなに七瀬を助けたいか」
「はい、七瀬さんは何も悪いことはしていません。全ての元凶は私にあります。しかし、七瀬さんはそれを咎めることもせず、私を気遣い、庇うばかりです。私は七瀬さんに恩返しをしなければなりません。……それに私自身が七瀬さんを失いたくはないのです……どうか、お力をお貸しいただけませんでしょうか」
春斗は懇願するように大御神を見上げる。
断られたらどうしよう。何としてでも説得しなければ七瀬が助かる道はない。
春斗は煩い心臓の音を聞きながらも足先が冷えていくのを感じた。
「……七瀬が助かるのなら、そなたの身に何があっても構わぬというか」
大御神の重厚で低い声が春斗に降りかかる。
「は、はい!」
「そなたの命と引き換えてもか」
「……いいえ。それはできません」
「それだけの覚悟か」
冷たく響く大御神の声に震えそうになるが、春斗は必死に食らいついた。
「違います。命を懸けても構わないほどの覚悟はあります。しかし、命を捨てることはできません。七瀬さんは私を認めてくれています。私の命と換えたとして、七瀬さんが喜ぶとは到底思えません。七瀬さんを悲しませるために、乞うているわけではないのですから」
失礼なことを言っただろうか……
さらに怒りをかったかもしれない……
春斗はいまだ震えそうな足に力を入れて耐える。
「……そうか。……そなたは生涯、七瀬と共にありたいと考えておるのだな」
「はい」
「どんなに苦しく辛い時が来ても耐えられるか」
「はい」
春斗は姿勢を正し答える。その瞳には一点の曇りもなかった。
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