13 / 15

第13話 覚悟

 正伸は神殿に向かい姿勢を正し礼の姿を取る。  春斗も慌ててそれに倣った。 「何の騒ぎだ」 「はっ、この者が七瀬様を助けてほしいと騒ぎ立てております」  正伸は頭を垂れたまま申し上げる。 「……ほお。七瀬は強い邪気に侵されておる故、それは間もなく全身に広がるだろう……もう助からん」  大御神の言葉に、春斗は顔を上げる。 「だめです! 絶対に助けたいんです!」 「大御神様の御前だぞ! 無礼であろう!」  正伸が横で咎めるが、大御神はそれを遮る。 「よい。そんなに七瀬を助けたいか」 「はい、七瀬さんは何も悪いことはしていません。全ての元凶は私にあります。しかし、七瀬さんはそれを咎めることもせず、私を気遣い、庇うばかりです。私は七瀬さんに恩返しをしなければなりません。……それに私自身が七瀬さんを失いたくはないのです……どうか、お力をお貸しいただけませんでしょうか」  春斗は懇願するように大御神を見上げる。  断られたらどうしよう。何としてでも説得しなければ七瀬が助かる道はない。  春斗は煩い心臓の音を聞きながらも足先が冷えていくのを感じた。 「……七瀬が助かるのなら、そなたの身に何があっても構わぬというか」  大御神の重厚で低い声が春斗に降りかかる。 「は、はい!」 「そなたの命と引き換えてもか」 「……いいえ。それはできません」 「それだけの覚悟か」  冷たく響く大御神の声に震えそうになるが、春斗は必死に食らいついた。 「違います。命を懸けても構わないほどの覚悟はあります。しかし、命を捨てることはできません。七瀬さんは私を認めてくれています。私の命と換えたとして、七瀬さんが喜ぶとは到底思えません。七瀬さんを悲しませるために、乞うているわけではないのですから」  失礼なことを言っただろうか……  さらに怒りをかったかもしれない……  春斗はいまだ震えそうな足に力を入れて耐える。 「……そうか。……そなたは生涯、七瀬と共にありたいと考えておるのだな」 「はい」 「どんなに苦しく辛い時が来ても耐えられるか」 「はい」  春斗は姿勢を正し答える。その瞳には一点の曇りもなかった。

ともだちにシェアしよう!