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第15話 春斗から七瀬へ
鳥居を潜ると、そこは屋敷の前だった。
春斗は、走る。土間へ飛び込み、驚く里緒と菜緒を無視し、七瀬の部屋へ。
七瀬はまだ苦しそうに荒い息を吐いて、眠っていた。
「七瀬さん、待たせてごめんなさい。今楽にしてあげますから……」
春斗は苦し気に眠る七瀬の寝間着を寛げ、肩にそっと触れた。目を閉じ、念を送るように集中する。
七瀬を助けたい。力を送りたい。そう念じると、春斗の中で熱い塊のようなものが動くのを感じた。それは春斗の体内を移動し、七瀬に触れている右手の掌へ集まる。そして、七瀬の体内へと流れていった。
神力を体外に放出することは、上級神でも身体に負担がかかる。それを神力を授かったばかりの春斗が行うのだ。負担は計り知れない。
春斗の額には汗が滲む。
……息が苦しい。でも、ここで止めるわけにはいかない。
止めることはせず一心に気を送り続けた。
七瀬は、身体の異変を感じたのだろう。一層苦痛に表情が歪み始める。
他人の神力を体内に入れることは、入れられる方も、馴染むまでは苦痛を伴う。依然、春斗が七瀬に助けられたときに聞いた話を思い出した。
七瀬さん……頑張って。必ず助けるから……
どのくらい経っただろうか。春斗は、次第に七瀬の呼吸が落ち着いてきているのに気が付いた。
それを見て、ようやく七瀬から手を放す。寝間着の袷を整えて、冷たい水で湿らせた手拭いで、七瀬の汗を拭った。
「……春斗……?」
「七瀬さん! 気が付きましたか?」
まだ少しぼんやりしているが、七瀬の目が開き春斗の姿を捉えた。
「七瀬さんっ……よかった……」
「……また、泣かせてしまったな……」
七瀬は、ゆっくりと手を伸ばし、その手で春斗から流れ落ちる涙を拭った。
「春斗……何故私を助けた。放っておけばよいものを」
「え?」
どうしてそんなことを言うのだろう。目の前で苦しんでいる七瀬を放っておけるわけがないのに。「好きだ、愛している」などと言葉にすることは少ない春斗だが、心では七瀬をかけがえのない存在だと思っている。そんな人を見殺しになんてするはずがない。
なぜ七瀬がそんなことを言うのか春斗には理解ができなかった。
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