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第17話 安堵
「怪我人は大人しく寝ててください!」
春斗は、七瀬の両肩を押して無理矢理布団に押し込んだ。
「なんと手荒い看病だ」
楽しそうに笑う七瀬。
そんな七瀬に、春斗は内心ほっと息を吐く。
顔色も随分よくなっているし、これだけ冗談も言えるのであれば一安心だろう。良かった……本当に。
「今日は安静にしていてくださいね。喉も乾いているでしょう? 今、飲み物を持ってきますから」
春斗は、腰を上げ薬草茶を淹れることにした。
ついでに、洗濯物を干していた里緒と菜緒に七瀬の目覚めを伝えると、目を輝かせて飛んで行った。
彼らも嬉しいのだろう。
すぐに七瀬の部屋の方から賑やかな声が聞こえてきた。
お茶を手に七瀬の部屋に戻ると、里緒と菜緒の姿はなかった。
「あれ? 二人はどこへ行ったんですか?」
「ああ、ひとしきり騒いで、今夜は快気祝いだと夕餉の支度に走っていったよ」
「ふふふ、あの子たちらしいですね。まあ、二人のことですから体に優しい料理を用意してくれると思いますが……」
春斗は持ってきた湯呑みを七瀬に手渡した。
「……ああ、春斗の淹れたお茶だ。優しい味がする」
七瀬は瞳を閉じてゆっくりと味わう。
「春斗……ありがとう」
七瀬が改まって礼を言う。
急にしんみりとした空気に春斗は落ち着きなく視線を泳がせた。
「いきなりどうしたんですか」
七瀬の表情は、とても穏やかで全てのものを包み込むようだった。
温かく優しい空気が漂う。
春斗は七瀬の出すこういう空気が大好きだった。
温かい湯船に浸かっているような、母のお腹の中にいるような不思議な感覚。全身を、心までをも委ねてしまいたくなる心地よさ。
七瀬が生きている。七瀬の声が聞こえる。七瀬が笑っている。七瀬に触れることができる。
春斗は、安堵と喜び、不安からの解放で胸が締め付けられた。
七瀬に触れたい。七瀬の体温を感じたい。
春斗は、言葉にすることはできず、無言で七瀬の布団に潜り込んだ。
七瀬は驚きもせず、春斗を迎え入れる。
胡坐をかいた状態で、春斗を向かい合うように膝に乗せた七瀬からは柑橘のような甘い香りが漂った。
「春斗は甘えん坊だな」
七瀬が春斗の頬を撫で、春斗はその擽ったさに目を閉じる。
二人の視線が混じりあい、どちらからともなく唇を合わせた。短く触れるだけの口づけは、とても柔らかく、どこまでも優しかった。
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