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番外編 花見1
「春斗様―! 大変ですっ!!」
春ののどかな風を受けながら、縁側で新作の薬草茶を煎じていた春斗は、その慌ただしい声に顔を上げる。
飛び込んできたのは七瀬の眷属であり、身の回りの世話をしている里緒だった。
かなり焦った様子で、普段は隠されている狐の耳が出、ふさふさの綺麗な尻尾が揺れていた。
「里緒、どうしたの?」
「な、七瀬様がっ、あの……えっと……」
取り乱している里緒を一先ず宥めようと、小さな背を撫でる。
「里緒、大丈夫だから、落ち着いて。ほら、深呼吸」
「……はあ、申し訳ありません。取り乱しました」
「うん、それで? 七瀬さんがどうかしたの?」
今朝方、七瀬は近隣の土地神が集まる会合に出席すると言って出かけたはずだ。そこで何かあったのだろうか。
「はい、今日は土地神様方が集まって会合……というか、お花見だったのですが……」
なるほど。会合というのは花見だったのか。
確かに桜は満開で、ちょうど見頃だ。何処からともなく菜の花の芳しい香りも漂っている。
神様が複数集まっての花見とは、それはきっと華やかなのだろうと想像する。
それにしても、七瀬に何があったのだろう。
春斗は先を促すように、里緒に頷いて見せる。
「珍しいお酒が手に入ったと吉野様がおっしゃって、それを七瀬様が召し上がったのですが、それがとても強いお酒だったようで、七瀬様が酔われてしまったのです」
吉野とは吉野村の土地神で、とても豪快な性格の神様だと里緒が補足する。
「七瀬さんが酔っぱらってるの?」
七瀬は酒にはめっぽう強く、自我を忘れるような飲み方をしたことは一度もない。
一緒に酒を飲むこともあるが、いつも春斗の方が先に酔ってしまい、七瀬の手を煩わせているほどだ。
七瀬の酩酊する様子を想像してみたが、そんな姿は全く想像できなかった。
「それで?」
「七瀬様が春斗様をお呼びになっておられるのです」
「え? 俺を?」
「はい、今は菜緒がなんとか宥めていますので、どうか春斗様に来ていただきたく……」
神様ばかりの花見に俺が行くなんて、さすがに気が引ける。
だが七瀬が呼んでいるのなら行くべきなのだろうか。
里緒と菜緒も困っている様子だし、このままではかわいそうだ。
「俺が行っても大丈夫なの?」
「春斗様は七瀬様の伴侶ですし、既に神格もお持ちですから。それに、他の神様方も春斗様にお会いしたいとおっしゃっています」
「……わかった。支度をするから待っててもらえる?」
今日は外出の予定もなかったので、春斗は楽な作務衣を着て過ごしていた。
神様方に会うのに流石にそのままではまずい。
そう思った春斗は、最近新たに仕立ててもらった着物を羽織る。銀鼠の色無地に芥子色の帯、青緑の羽織という春らしい出で立ちだ。
初めて袖を通したときは、「温和な雰囲気の春斗に良く似合う」と七瀬も太鼓判を押していた。
春斗は里緒に連れられて、花見会場へ急ぐことにした。
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