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番外編 花見2
「こちらです!」
玄関の先にある鳥居を潜った途端、ぶわっと風が起きる。
思わず反射で閉じた目を開くと、もうそこは桜が咲き乱れ、菜の花が風に揺れる広場だった。
その中央に大きな茣蓙が敷かれ、十数人ほどが酒を酌み交わしたり、豪華な食事に箸を伸ばしたり、会話に花を咲かせたりと賑やかだった。
その一角に、七瀬と菜緒の姿を見つける。
七瀬は頬を赤らめ、酒を煽っており、菜緒はその横で水を手にオロオロとしていた。
春斗が二人に近づくと、真っ先に気が付いた菜緒が声を上げる。
「春斗様! 助けてくださいー!」
「菜緒、大丈夫?」
「もう、止められるのは春斗様しかいません!」
状況があまり飲み込めない春斗だったが、七瀬が飲みすぎていることだけは一目でわかった。
「七瀬さん?」
「おお! 春斗―。よく来た! ほら、ここに座れ」
ポンポンと胡坐をかいた自身の膝を叩く七瀬に、春斗は苦笑する。
「皆さんの前でそんなことはできませんよ」
「……なぜだ。私の春斗なんだからよいではないか」
頬を膨らませる七瀬がほんの少し可愛らしく感じるのは惚れた弱みだろうか。
「おやおや、それが七瀬殿の最愛の君ですかな?」
背後からの大きな声に振り向くと、恰幅の良い男が大口を開けて笑っていた。
髪は燃えるように赤く、肩甲骨辺りまで無造作に伸ばしている。
七瀬とは対称的な、少々荒っぽい印象だった。
「吉野殿。惚れてはなりませんよ。これは私のですからね」
ああ、この方が吉野様か。なるほど、確かに豪快な方だ。
里緒の言葉を思い出し、春斗は一人納得した。
「はっはっは! 確かに可愛らしい。春斗殿と言ったかな?」
「あ、はい。春斗と申します」
吉野は、ぺこりと頭を下げる春斗の頭上で、また豪快に笑う。
「はっはっは! 七瀬殿は優しくしてくれるかね? 私は優しいぞ? ほら、ごちそうもある。こっちに来い」
春斗の手を引こうとする吉野。
春斗はその力強さに驚き、成すすべもなかった。
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