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番外編 花見3

 まあ、神様だし悪いことはないだろうと足を踏み出したが、その足は七瀬によって止められてしまった。 「ちょっ……七瀬さん!」  七瀬は春斗を背後から抱きしめ離そうとしない。 「行くな。春斗は私のだ」  吉野は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにまた破顔する。 「おお、あの冷静沈着な七瀬殿がこんなにも誰かに執着するとは! これは面白い!! やはり可愛い顔をしておるからなあ。……床では尚のこと可愛かろうなあ」 「なっ?!」  初対面で突然そんなことを言われ、春斗は驚きと羞恥で赤面する。  酒の席で下世話な話になるのは人間も神も同じなのか…… 「吉野殿! 言葉が過ぎますぞ」 「これはこれは、申し訳ない。春斗殿、七瀬殿が嫌になったらいつでもお相手いたすぞ?」 「吉野殿!!」  春斗を背後から抱きしめたまま、本気で怒りだしそうな七瀬の気配に、春斗は腹にある七瀬の手を数度軽く叩く。 「七瀬さん、七瀬さん、落ち着いてください。俺は七瀬さん以外のところに行くつもりはありませんから」  春斗の言葉に幾分落ち着きを取り戻した七瀬は、自身を落ち着かせるように息を吐いた。 「ああ、すまん。……ちょっと飲みすぎたようだな」 「ふふ、ちょっとじゃないでしょう? 完全にお酒に飲まれてますよ?」  吉野はまだ楽しそうに笑っている。  そして、いつの間にか二人の周囲には他の神々も集まりだしていた。 「おやおや、新顔だね」 「おお、噂のお嫁さんか」 「いやはや、めんこいのぉ」  注目された春斗は、どうしたものかと七瀬を見上げる。 「紹介しましょう。私の伴侶の春斗です。何かの折にはよろしくお願いします。……ただし、私の伴侶であることをお忘れなく」  再び背後から抱きしめられ頬に口付けられた。春斗は羞恥で顔から火が出そうだった。 「七瀬さんっ、皆様の前ですから!」 「皆の前だからだろう。牽制だ」  酒に酔った七瀬がこんなにも手に負えないとは思わなかった。  人前で……大勢の神様の前でこんなに大胆なことをするとは……  しかし、目の前の神々は皆にこやかに笑っている。 「あの七瀬がねぇ。よかった、よかった。」  長身で若く優し気な男が感慨深いというように頷く。 「春斗殿、七瀬は私の後輩でね。ずっと独り身なのを心配していたのだよ。七瀬はこの通り、見目もよいだろう? 言い寄ってくる者は老若男女問わずだったんだが、七瀬は全部追い払っていたんだよ。それがいつからだったか、数十年くらい前から人間に懸想しているとか言い出して。それが春斗殿だったんだね。優しそうな子で安心したよ。七瀬をよろしくね」 「……和葉殿、余計なことは言わないでいただきたい」 「ははは、申し訳ない。だが、七瀬、春斗殿を大切にな」 「もちろん、そのつもりです」  春斗は、しみじみと周りを見回した。  なんとも心地の良い穏やかな空気が流れている。  春斗は、自身が元々人間であり、異質な存在だと自覚していた。だが、ここでは歓迎されている。ここにいることを皆が快く思っている。それを肌で感じ、ただただ嬉しかった。

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