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星間歩行 9
結が出て行ってから二日後の夜、明人の部屋のインターホンが鳴った。結が帰ってきたかと、慌ててドアのチェーンを外す。
「派手に喧嘩したんだって? 結から聞いたよ」
にこやかに水を向けるスーツ姿の翔磨に明人が肩を落とす。とはいえ、結の近況はこの男からしか聞けないのだ。明人は渋々「そうですか」と応じると、翔磨を部屋に通した。
「結が寄生虫だって、小説に書いたそうだね」
翔磨が皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「そんなこと書いていませんよ。兄貴が悪く取っているだけだ」
明人は結に連絡するか迷っていた。
二日前、たしかに自分は言い過ぎた。が、結にも悪いところがあったのだと考えて、何もせずに来てしまった。
「君はほんとうに、あの小説で結をモデルにしなかったのか?」
翔磨の問いに、明人が押し黙る。
「僕も小説を読んだけど、あれは結のことだと思ったよ」
翔磨は正確に明人の真意を見抜いている。明人は翔磨から目を逸らすと、口元を引き結んでうつむいた。翔磨は沈黙する明人に答えを促さなかった。
自分は結への思いを話のネタにしたが、それによって結を責めたかったわけではない。結がやましさを感じていたから過剰に反応したのだ。
「結が君の重荷になるのはわかるよ。でも、君はこれからどうしたいんだ?」
「それは兄貴と話し合うことです。翔磨さんには関係ない」
「関係あるよ。結は事あるごとに僕に泣きついてくるからね。僕はピエロみたいなものだよ」
「ピエロ?」
「馬鹿な子を好きになったからしょうがないけどね」
大げさに翔磨がため息をつく。結を馬鹿にされて明人は苛立ちを感じる。
「とりあえず、結に話しておくよ。君らは基本的に、会話が足りないんだ」
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