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星間歩行 35
結の小品展は、渋谷の映画館に近い小さな画廊で行われていた。
画廊に人影はなく、白い展示スペースに結の作品と祝いの花が置かれていた。テーブルに置かれた赤い花のアレンジメントに翔磨の名前が書かれている。
相変わらず翔磨は結の面倒を見ているのだろうか。
結の絵を観て、明人は目を見開いた。
自分がいままで観たのは、葉書のアマリリスの絵だけだった。すべてが四十センチ以下の新作で、パリのモンマルトルのような白と灰色の街並みの風景、柘榴とワレモコウの描かれた静物、秋の銀杏並木の風景などが描かれている。
結が描いていた宇宙の絵は一枚もなかった。発光するような星雲や、きらめく星々、結の筆触分割の絵が一枚もない。
――売り絵だ。
明人に詳細な絵の技巧はわからない。が、これらの絵は、きれいに整えられた観光地の絵葉書のようだった。絵に奥行きがなく、結の想いも感じられない。既製品の、ただ美しく塗られただけの絵。
こんな絵を描いていてはいけない。
明人はスマートフォンを取り出して、結にメッセージを送ろうとした。が、結からは個展に招待されていないことに気づいて、スマートフォンを鞄にしまう。
画題の書かれたプレートの横に、赤いシールが貼られていた。売約済みの印だろう。赤いシールは三点の絵に貼られていた。全部で数万円の売り上げだ。明人の胸に不安がわだかまる。
こんな絵を売って、結は満足なのだろうか。
明人はすべての絵を観ることなく、画廊を後にした。頭を打ちのめされたように、軽いふらつきを覚えていた。
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