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第12話 噛みそうだ

 なんか恥ずかしくなって、料理を口に慌てて放り込む。美味しかったけど、勢いが良すぎてむせてしまった。 「ゲホッ……ゲホッ」 「慌てなくても、足りなかったら。頼みますよ」 「は、はい……ありがとうございます」  そう言って微笑んで僕の口元を、ナプキンで拭いてくれた。やっぱスマートにやってくれて、本当にカッコいい。  そう思っていると顎をクイッとされて、そのままキスをされる。ワインを飲んでいたからか、口に白ワインの味が広がってくる。  目を閉じると舌を入れられて、絡められ何度もキスをされた。蒼介とは違うやり方に、僕は戸惑いながらも相手のペースに合わせるしかなかった。  閉ざされた空間に、僕たちの吐息の音とリップ音が響き始める。両腕を掴んで少し怖かったけど、気持ちよかった。 「……発情(ヒート)の時期は、いつからですか」 「よて……いでは、三日後です」 「もう始まってますね。ここ、膨らんでますよ」 「ふっ……そこ、やめ」  耳元で甘い声で囁かれて、僕の大事な部分をズボン越しに触られた。最近ヌイていないのと、ヒートもあってかかなり気持ちいい。  触れられた箇所が敏感になっていて、全身がビクリと反応する。だけど恥ずかしくて、更に体を密着させてしまう。  そして更に体温が急上昇していく。するとニコニコ笑顔を浮かべた花楓さんに、ベルトを器用に外されていく。 「嫌なら抵抗してください」 「あっ……んっ」  ズボンを太ももまで下ろされて、下着越しに触られた。触り方が優しくて、ものすごく物足りない。  下着越しに僕のを舐められて、もどかしさがあって触ってほしいと思った。すると今度は、ワイシャツを捲られて胸を触られる。 「そこっ……やめっ……んっ」 「綺麗ですね……」  今度は左胸を舐められて、僕の声が部屋に響く。聞かれたくなくて、両手で口元を押さえる。  右手で下着越しに下半身を触られて、更に抑えきれなくなってくる。もうこれ以上の刺激は、本当にヤバい……。  そう思っていると、舐めるのと触るのをやめた。正直物足りなくて、もっと欲しくなってしまう。 「も……やめ……ん」 「大丈夫……まだ、終わらないから」  耳元でそう呟かれて、今度は下着まで下げられた。自分でも驚くくらいに、下半身が主張していた。  恥ずかしい……だけど、もっとしてほしい。足りない……Ωの本能なのか、僕自身の感情なのか……。  どっちでもいいや……そう思っていると、僕の前に跪いてニコリと微笑む。まさかと思ったら、そのまま口に含み始める。 「ふっ……あっ……んっ」  僕の声と水音が響いて、更に体が熱くなってしまう。ふと花楓さんを見ると、耳が真っ赤になっていた。  しかも花楓さんも、αの発情状態のラットになっているようだった。しかもかなり強くて、強烈な柑橘系の香り。  蒼介のは柚子の香りがしていたけど、こんなに強いものじゃなかった。Ωにもαにも、その人特有のフェロモンの香りがある。  その様子を見て、かなり我慢してくれているのが分かった。しかも何の躊躇いもなく、口に含んでいてこっちを見てくる。  綺麗な青みがかった瞳に、余裕のなさが窺える。このむせかえるようなフェロモンの香りが、より一層興奮させてくれた。  それが更に体を熱くさせてきて、白濁した液体が出てしまう。ヤバいと思ったけど、何の躊躇いもなく飲み込んだようだった。 「はっ……飲んで……」 「無理しないで、休んでください」  そう言われて頭を撫でられて、キスをされた。その時に何かを、飲まされたような気がした。  多分錠剤だと思う……水と自分のものが入ってくる。キスをされたからか、全く嫌な感じはしなかった。  薄れゆく意識の中で、お姫様抱っこをされた。そのまま隣接している隣の、部屋のベッドに寝かされた。  ズボンを直してくれて、布団をかけられた。何となく花楓さんの下半身を見ると、ズボン越しでも分かるぐらいに膨らんでいた。  僕のヒートに当てられたのか、僕で興奮したのか……それは定かではないけど、嬉しくなってしまった。  そしてそのまま意識を手放す。目が覚めると、隣でぐうぐうと寝息を立てて寝ていた。  その寝顔が年相応の可愛い感じがして、思わず鼻を触ってみる。すると急に腕を掴まれて、押し倒されてしまった。 「湊さん……だいぶ、良くなったようですね」 「は、はい……」  さっきの出来事が脳内再生されて、途端に恥ずかしくなってしまった。目を逸らしてしまいそうになるけど、顎を触られて強制的に目線を合わされた。  そして顔が近づいてきて、目を閉じると耳元で囁かれる。その声がいつもよりも甘く、そして熱を帯びていた。 「今、首元見せないでください。うっかり噛みそうだ」 「つっ……」  そう言っている花楓さんの瞳は、飢えた獣のような感じだった。体がゾクリとして、目を逸らすことが出来なかった。  僕の顎を支えている手から、血のようなものが見えた。我に返った僕は、思わず手を掴んで見てしまう。 「血が……」 「ああ、大丈夫です。止まっているので」 「すみません……僕のせいで」 「いいんですよ。お役に立てたら、何よりですから」  そう言って、微笑んでくれている瞳はいつもの優しいものだった。安心したからなのか、急にお腹が大きな音を主張し始める。  クスッと笑われて、恥ずかしくなってしまった。そしてそのまま優しく、起き上がらせてもらった。  手を握られてエスコートされて、食事の置いてある部屋に連れて行かれた。二人でソファに並んで座った。  すっかり冷めてしまった食事を口に入れる。申し訳ないけど、僕は正直料理の味どころじゃなかった。  だってさっきまでここで……その、されていたわけだし。そういえば何で、ヒート治ってるんだろ。  完全ではないけど、体が軽くなったような気がする。そこでゴミ箱に、捨てられているヒートの抑制剤が見えた。  あっ……もしかして、あの時キスされた時かな……最近のヒート剤は、即効性があるから簡単に効くんだよね。  まあ一過性のものだから、また直ぐにヒートが始まってしまうんだけど……その前に、折角の料理を食べてしまおう。 「冷たくなってしまったので、下げますか」 「大丈夫ですよ。もったいないですから」 「……ふっ、そうですね」  御曹司の花楓さんには、分からないかもしれないけど……庶民にとって、食べ物を捨てるのは御法度だから。  僕のために言ってくれているのは、分かるから嬉しいけど……そんな僕を真っ直ぐに見て、微笑んでくれていた。  その表情が愛おしいものを、見つめているようで恥ずかしくなってしまった。それと同時に、胸に何か熱いものを感じた。 「ケーキもご用意したので、食べてください」 「ありが……凄い種類ですね」 「何が好きか分からなかったので、適当に用意しました」 「食べきれますかね……」

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