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第16話 認めよう
早いもので二月になった。慌ただしくて、蒼介のことをあんまり考えなくなっていた。
今日は透真とその旦那さんと、飲みに居酒屋に来ていた。まあ、それはいいんだけど……。
「透真。はい、あ〜ん」
「んー、美味い。律も食べて〜」
「仕方ないな、美味しいじゃん」
食べさえ合いっこをしている、このラブラブっぷりである。旦那さんの律 さんは、僕と同じく男のΩだ。
蒼介の高校の同級生で、顔見知り程度の仲だったらしい。童顔で目がくりっとしていて、ピンクに髪を染めていて大きな黒縁眼鏡をかけている。
身長も女性と同じぐらいだし、髪も長いから見た目的に女性に見える。正直同じΩの男性とは、思えないぐらいに可愛い。
僕たちと、同じ会社のwebデザインをしている。基本的に、在宅ワークらしく会社には出社しない。
そんな二人を僕はジーと、見つめながらお酒を飲んでいる。この前の失敗があったから、ほどほどにしとくように花楓さんと透真に叱られた。
「あのさ、僕の相談。聞く気ある?」
「ああ、あるよ。いいよ、話して。律、何か飲み物頼むか?」
「うん、烏龍茶がいい」
「すみませーん、烏龍茶下さい!」
僕の言葉を適当に流して、注文をする透真。今日は僕が花楓さんのことで、相談したくて飲みの場をセッティングした。
それなのに、こいつらときたらイチャイチャとして。公共の場で恥ずかしくないのかな……そう思って、僕は今一度大きな声で聞いてみた。
「もうっ! 僕のこと、無視しないで! 相談聞いて! イチャイチャしないで!」
「……じゃあ、聞くが。俺が律とのことで、相談した時お前と蒼介は話聞いてくれたか」
「……んーと、あの時は」
透真に聞かれて、約四年前のことを思い出す。僕と透真が今の会社に入社して直ぐに、会社全体の飲み会が行われた。
その時に運命の番として、出会った透真と律さん。最初はαに対しての嫌悪感がすごくて、透真というかα全体を敵視していた。
同じΩとして、気持ちは分かる。Ωってだけで虐められたり、襲われそうになってしまう。
僕には幸い透真っていうお兄ちゃん的な、いつでも守ってくれる存在がいた。でも残念ながら、律さんには守ってくれる人がいなかった。
でも心の底から善人の透真に、いつの間にか心惹かれていた。最初は自分に敵対心を持っていた人が、急に好意を示し始めたから戸惑っていた。
そのため当時、付き合いたての僕と蒼介に相談してきたのだ。僕たちは今の二人のように、居酒屋でイチャイチャしていた。
「相談聞けよ!」
「えー、透真なら大丈夫だよ。ね? 蒼介」
「あー、大丈夫じゃね。まあ、頑張れ」
考えてみたら、僕たち自分たちのことしか頭になかった。今思えば結構最低なことを、していたような気がする。
僕の返答を待っている透真と、興味なさそうに烏龍茶を飲んでいる律さん。そんな二人に僕は、最大限の申し訳なさを表現する。
「てへぺろっ」
「……真面目に聞いた俺がバカだった」
「そうだね、湊くんに真面目に聞いたあんたが悪い」
「庇っているようで、攻撃されている?」
僕がそうツッコむと、二人は顔を見合わせた。そして完全に無視して、またイチャイチャし始める。
その光景を眺めて少し前までは、蒼介と二人みたいな関係性だったんだよね。そう思ったら、なんだか悲しくなってしまう。
そんな僕の気持ちを知らずに、二人はまたイチャイチャとしている。なんか無性に腹が立って、僕は最大限のわがままを口にする。
「子供が、わがままを言うのはいいけど! パパは聞いてよ!」
「何それ……透真、少しはビシッと言いなよ」
「う〜ん」
僕の言葉と律さんの、厳しめの意見を聞いて考えていた。思考してから、何かを思いついた様子の透真が口を開く。
「確かに……パパは子供のわがまま聞くべきだよな」
「そうだよね! 僕の相談聞いてよ!」
「……こいつら、マジおかしい」
透真は僕の調子に合わせてくれて、律さんは本気で引いていた。それでも僕は構わずに、相談をすることにする。
蒼介のことが好きなはずなのに、花楓さんのことを考えてしまう。あの人のフェロモンの香りが、好きなのは確かで……。
落ち着くし、嫌なことがあっても気持ちが晴れていく。蒼介の時も同じような感じで、好きになったんだよね。
「あのさ……それって、もう好きってことじゃん」
「好きなのかな……分からないんだよね」
僕がそう言うと律さんから、ため息が溢れた。ほんとに分からないんだよ……とても曖昧で、フワッとした感覚。
好きなのかな……花楓さんのことを考えると、胸の中が暖かくなってくる。認めよう……僕はあの人のことが、好きなんだ……。
そう思っていると、透真が何やら真剣に考えているようだった。そして僕の目を、真っ直ぐに見て伝えてきた。
「蒼介が別れたくないって、俺に相談してきたんだよな。でさ、本当に社長とは番になってないんだよな」
「うん、なってないよ。蒼介も言っていたけど、どうしてそう思うの?」
「番がいる俺には、分からないんだが……番がいない蒼介には、湊から社長のフェロモンの香りがしたって言ってた」
どういうことだろ? 番になってないよね……ヒートが来て、他の人も当てられたりしてるし。
一緒にいるから匂いがしてる? そんなはずないよね……もしそうなら、二十年以上いる透真の匂いが僕からしてるはずだもん。
だからあの時、蒼介怒っていたのかな……別れたくないか……僕だってほんとは、別れたくなんてなかった。
番になって結婚したかった。でも理由をつけて、それを拒んでいたのは蒼介でしょ……見て見ぬ振りをしていた。
もしかして、蒼介は僕と結婚したくなかったんじゃないかって……。それでも彼が好きだったから、信じて待っていた。
もう待つのは疲れたんだよ……もしあの日のことがなくても、どこかで綻びが出てしまったかもしれない。そこで気がついてしまう……。
「もう無理なんだよ……花楓さんに対しての気持ち以前に、僕の中では蒼介はもう……過去だから」
「湊……そうか、でもちゃんと自分で言えよ。残酷かもしれないが、今のままは誰も幸せになれないんだからな」
「うん……直ぐは無理だけど、自分で言うよ」
僕が無理に笑って言うと、透真が優しく微笑んで頭を撫でてくれた。そんな僕らを見て、律さんが怒っていた。
そして頭を撫でている手を取って、腕を絡ませていた。そして少しムスッと僕の方を睨んでくる。
威嚇している子猫みたいで、可愛かった。あー、嫉妬か……可愛いなあとほっこりしていた。
「り、律?」
「他の人のこと、撫でないで」
「……マジで可愛い。嫁最高」
「もうっ……バカ」
そんなことを、自分たちの世界に入って話していた。こいつら……と思いながら、僕はチビチビと飲んでいた。
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