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第24話 花楓side 隙が出来たようだ
「って、そうじゃない……何、やってんだよ」
俺は我に返って、湊を抱き抱えた。冷たくなってきていて、何かあったのは明白だった。
「大丈夫ですよ。湊さん」
とりあえず、今度のことは後で考えよう。体を温めないと、このままじゃ凍死すると思い車に乗せる。
近くのアパートから血相変えた小笠原が出てきて、必死に声を出していた。湊の名前を連呼していて、俺はニヤッと笑って車を発進させる。
――――隙が出来たようだ。
大丈夫だよ……湊。これからは俺が何があっても、君を守り切るからね。家に着いて濡れている衣服を脱がす。
「マジで綺麗だ……」
綺麗な白い肌に美しい体つき、本当はもっと眺めていたい。だけど、今は一刻も早く体を温めないといけないな。
ベッドに寝かせて暖房を入れる。布団をかけて俺も裸になって、体温で温めることにする。
そこで湊のスマホが鳴り響いたから、見てみると小笠原からだった。ふざけんなよ……こんなに泣かせて、冷たくさせて……。
心配すればいい、泣き喚けばいい。深部まで冷え切っていて、もう少し発見が遅かったから大変なことになっていた。
しばらくすると、だいぶ温まってきていて……血色もよくなってきて、それでも自然と涙が溢れていた。
「そう……すけ……なんで……」
「ちっ……まあ、いい」
それからも何回も何十回も、電話が鳴り響く。いい加減に煩いなと思って、スマホを見ると今度は透真の文字が見えた。
透真って確か、幼なじみの金城透真か……流石に出ないと、警察に行かれたら困るな……そう思って、電話に出ることにした。
「はい」
「湊! ……じゃないな、誰だよ」
「帝花楓ですよ。今、私の家にいます」
「……しゃ、社長がどうして」
この際タメ口なのは、いいとしよう。金城が悪いんじゃないし。この状況だと事態が、飲み込めないだろうからな。
そのため俺がかいつまんで説明をすると、渋々納得したようだった。
それから仕方なく、小笠原にも皮肉たっぷりの電話をした。
「広瀬さんが具合悪そうなので、私の家に泊めますので」
「すみませんが、社長……住所教えてください。直ぐに迎えに」
「その必要はありませんよ。もう夜遅いですし」
「えっ……いやっ、その直ぐに行きます」
何があったか知らないが、湊が傷ついている。お前が悪いんだろ? 隙を作ったのはお前だ。
「必要ない。とにかく、これは社長命令です。広瀬さんは、私が面倒を見ます」
「しゃちょ」
そこで俺は腹が立ってきたから、直ぐに電話を切り着信拒否にした。一応のことを考えて、湊を装って金城に連絡を入れた。
今は冷静な判断ができないから、社長に間を取り持ってもらうね……それっぽいだろ。そして分かったと連絡が来た。
小笠原が心配してるのだの、言ってきたからお休みと連絡する。メッセージのやり取りや、電話の履歴を二人分消去する。
「やっと、手に入れられるな……待たせたな……俺の、俺だけのΩ」
だいぶ温まったから、一旦離れて下着を身につける。スーツを綺麗にして、コート掛けにコートを掛けた。
スマホを入れる前に、GPSと盗聴アプリをインストールする。俺のスマホと連動して準備は万端だ。
このアプリは使用電力が少ないため、気付かれることはないだろう。もし気付かれても、俺だとは思わない。
暖房を消して俺も布団に潜り混んで、電気を消して湊の寝顔を眺める。涙が溢れていて、見るに耐えないぐらいに衰弱している。
一体何があったら、天真爛漫な笑顔が曇るんだよ。俺は怒りでどうにかなりそうな、気持ちを抑える。
おでこにキスを落として、優しく抱きしめて眠りにつく。目が覚めると、いつの間にか湊が起きていて一人で泣いていた。
「み……広瀬さん、泣き止んでください」
「えっ……しゃ、社長……な、んで」
「たまたま通りかかりましたら、広瀬さんが冷たくなっていたので。お連れしました」
状況を説明していると、くしゃみをしていた。俺は起き上がって、暖房を入れてお風呂の準備をするために寝室を後にする。
思っていたよりも取り乱していて、正直一人にしとくのは危ないと思った。専門的な知識はないが、鬱になりかけているように見えた。
ここまでなるだなんて、よっぽどあいつのことが好きなのだろう……気がつくと、自分の爪を噛んでいた。
おっと、この怒ると出る癖は直さないとな。寝室には入ると一人で、ボソボソと呟いていた。
「そう……すけに、電話なんてできないか」
「する必要ないですよ」
「社長……なん、で」
「小笠原さんと、何があったんですか?」
ベッドの方に行って優しく微笑んで、抱きしめて頭を撫でる。この感触いいな、それにしても細いな。
ちゃんとご飯食べているのだろうか。まずは胃袋を掴むのが、いいのかもしれない。そう思っていると、昨日の出来事を教えてくれた。
正直虫唾が走って、より一層……手放したくなくて、強く優しく抱きしめる。声を押し殺していたが、段々と嗚咽になっていく。
「落ち着きました?」
「はい、すみませんでした」
「何故、謝るのですか? こういう場合は、ありがとうと言って欲しいです」
「……ありがとうございます」
このままじゃ、また俺の手の届かない場所に行ってしまう。漠然としたそんな不安が、胸に広がっていく。
暖房をつけてお粥を作って、寝室の方に持っていく。何やら思い詰めた表情をしている湊の口に、適度な温度になったお粥を放り込む。
「広瀬さん」
「なんです……美味しい」
「有り合わせのものですが、良かったです。今は休むことに、集中してくださいね」
「はい……ありがとうございます」
リスのように頬張っていて、マジで可愛くて襲いたくなった。しかしこの衰弱している状態で、それはいけないと微笑む。
お風呂に誘導して、入っているうちにクリーニングにスーツを回収してもらう。いつかのために用意していたパジャマを……。
ここはこれよりも、俺のワイシャツを準備することにする。彼シャツというやつがあるらしく、雑誌に書いてあった。
「広瀬さん、着替えここに置いときますね」
「あっ! はい、ありがとうございます」
返事を聞いて脱衣所を後にすると、部下の佐々木からの連絡だった。こいつは今回の功労者だから、少しは優しくしてやるか。
ソファに座って仕事の指示をしていた。視線を感じるとコソッと、こっちを熱っぽい視線で見つめている湊が目に入る。
くそ……可愛い。あれで俺より年上ってサバ読んでんじゃないだろうか。そう思ってひと段落終えてから、電話を切って微笑みながら向かう。
すると何やら少し怯えた様子で、踵を返して走っていってしまう。俺は無我夢中で追いかけて、壁ドンを後ろからする。
「広瀬さん? どうされました?」
「あ、あの……この格好、恥ずかしいのですが」
「広瀬さん……」
「しゃ、社長……あの」
首筋が綺麗だ……無防備すぎて、噛みたくなってくる。今ここで噛んだら、番になれるだろうか。
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