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第28話 花楓side  同化

 会社に行って車の中にいる湊が、多分金城さんと電話しているようだった。 「これから言うよ……気持ちは固まったから」  これから伝えてくれるのか……もう、盗聴とGPSはやめよう。そう思って切ってから、車に戻ると変なことを呟いていた。 「好きです……好きなんだ! これは僕のキャラじゃないし……う〜ん」 「何がキャラじゃないんですか」 「えっ……うわっ!」  あーもう、可愛すぎてヤバい。今のって俺になんて言うか、考えてくれてたってことでしょ。  嬉しくなって、助手席にいる湊に抱きついた。我慢できない、早く俺だけに気持ちを伝えてほしい。 「か! かえ!」 「……好きですよ。私は、湊さんが……湊さんは、私のことどう思ってますか?」  マジで湊の口から聞きたい。顔を近づけると、耳まで真っ赤になっていた。目を閉じていたが、返事を聞くまではしないよ。 「返事くれたら、キスするよ」 「……イジワル」 「フッ……イジワルでいいから、教えて」  こればっかりは、何を言われても……ちゃんと湊の口から、目を見て言って欲しい。わがままかもしれないが、不安なんだよ。 「……き」 「はい? もう一度」 「……好きです。僕は、んっ」 「正直に言えたから、ご褒美のキス」  キスをするといつも以上に、感じてくれていた。ヒートを起こしていて、俺もそれに当てられた。  家に帰ってから初めて体を重ねて、幸せな気分に浸っていた。可愛すぎて痛くないようにするのが、辛かったがお互いに満足できたと思う。  湊がスヤスヤと俺の胸の中で寝ていて、体についた体液を拭こうとした。しかし、しっかり抱きつかれていて離れることが出来ない。  仕方ないから起きるのを待ってから、二人でお風呂に入る。幸せだなと思って、後ろから抱きついてしまう。    ドライヤーで湊の髪を乾かして、自分はタオルで無造作に乾かす。なんでドライヤーしないのかと、純粋無垢な瞳で聞かれた。  適当に流しておいたが、自分の髪なんてどうでもいいからな。ドライヤーだって、湊のために買ったわけだし。  ドライヤーを所定の位置に戻してから、リビングに行くと爪を切ろうとしていた。出来なくて腕が震えていて可愛かった。 「切るの怖い……腕が震える」 「何してるんですか」 「うわあ!」 「人を見てお化けを見たみたいな、リアクション取らないで下さい」  爪を切ってあげて、あいつに切ってもらっていたことを知る。なんでも、やってもらっていたようだ。  自分でもどうかと思うが、子供みたいに拗ねてしまう。だって、君の初めては俺が全部体験させてあげたかった。  まあでも、これから思い出を作っていけばいいか。俺たちだけの物語を、俺が幸せにするんだ。 「終わりました。ご飯でも、何か」 「ちょっとこのままで……いさせて」 「……分かりました」  ご飯を作るために立ち上がると、後ろから抱きしめられた。俺が後ろから抱きつくのは、あったが後ろからは初めてだった。  俺が初めてをもらって、どうすんだよ……でもいいな。こういうの……幸せってこのことを言うのだと俺は実感した。  その数日後のこと。俺は予定があって、実家の方に赴いていた。予定が滞りなく済んだから、書物庫を漁っていた。 「……どこにあんだよ。ありすぎ」 「何、探してんだ?」  膨大な量の書物庫の中を探していると、いつの間にか来ていた花向兄に声をかけられた。  正直、話したくないな……変に好奇心旺盛だから、湊に興味を持たれると困るからな。でも仕方ない、自分で探しても見つかる気がしない。 「花向兄……マーキングに関する資料、知らない?」 「マーキングね……噂の恋人さんにか?」 「まあ、そんなとこだ」  そう言うとふ〜んと言って、一緒に探してくれた。数十分探して、やっと見つけた。埃がついていて、息を吹きかけてから見ることにする。  俺が椅子に座ってから見始めると、花向兄は何も言わずに書物庫を後にする。俺は特に気にせずに、見始める。  そこには俺が思っていたよりも、最悪で無慈悲なことが書かれていた。マーキングはΩにとって、どんな呪いや魔術の類よりも最悪で邪悪な存在である。  αにもΩにも生涯たった一人にしか、この契約は結ぶことができない。それだけでなく、αのフェロモンがΩの体に刻み込まれる。 「……なんだよ、これ」  正直見たくなかったが、湊にとっても俺にとっても大事なことだ。マーキングは上級αが、Ωに対してする絶対服従契約である。  一生縛り付けて、Ωの心と体を分離させる。Ωの体を永久にαの体に縛り付け、体の自由を奪うもの……。  Ωがαを好きならば、なんの問題もない。なんだ、それなら大丈夫だ。俺たちは相思相愛で、順風満帆だ。  続きを読み始めると、そう単純な話ではないようだった。恋愛感情がΩ側から無くなった場合、最悪心と体が分離して……。  ――――自ら命を断つものもいる。 「んだよ、それ……」  それってつまり、もし今後……考えたくないが、湊が俺を心から拒絶した場合。危険なことになるって、ことだよな……。  解除の方法とかないのか……マーキングの解除の仕方は、絶対にないとされている。 「はあ……湊が俺を好きな理由は、マーキングの影響なのだろうか」  もしそうだとすると、かなりマズイ状況だろう。そう思ったが、Ωの心はマーキングでは縛れない。  そう書いてあって、ひとまずは安心する。しかし次の記述が、更に残酷な現実を突きつけてきた。 「同化……んだよ、これ」  同化とは、マーキングで契約を結んだαとΩが一心同体になること。お互いの心の中にある隠された真実までも一緒になる。  早いもので半年、遅いもので三年かかるとされている。Ωがαに恋を自覚した瞬間から、同化が始まり引き返すことができない。  マーキングの解除はできないが、Ωが恋を自覚する前に離れた場合。一ヶ月ぐらいで、同化の効果は自然消滅する。  ただし、一度でも自覚してしまった場合。もし気持ちがなくなった時に、Ωの肉体と魂が分離する。 「つまりは、湊の心が砕けるってことか……取り返しのつかないことをしてしまった」  湊と俺の深層心理までもが、一緒になり結合される。つまりは、半年か三年以内には……完全に同化が完成されている。  これは何があっても、湊には教えれないな……知らなかったとはいえ、とんでもないことをしてしまったようだ。  これは何があっても、一生かけて……湊を守らなくては、いけないと言うことか。覚悟なんてとっくに、出来ていたつもりだった。  湊のことが大事で大切で、この世界で唯一無二の存在である。それは揺るがない事実で、これからも変わることはない。  でも湊はどうだろう……怖い、湊を失うことも……湊の心が壊れてしまう可能性も……。  絶対に嫌われるわけには、いかない……喧嘩もしないようにしないと、もし嫌われてしまったら俺は絶対に自分が許せなくなってしまう。 「小笠原に酷いこと言って、自分はこのザマかよ……マジで、ダサすぎるだろ」  それでも後ろは振り向かずに、今は湊だけを愛していく。何があっても、湊のことだけは守り切る。  例え俺が怪我しても、絶対に守り抜く。俺がこれからできることは、一生涯かけて湊の心と体を守りぬくことなのだから。

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