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第40話 愛する湊

 あの喧嘩から早いもので、一ヶ月が過ぎていた。夏季休暇になって、僕たちは一泊二日の京都旅行に行くことになった。  新幹線に乗って移動してるんだけど、彼が完全に具合悪そうだ。何度も吐きそうになっていて、背中を摩っている。 「大丈夫? ほら、水」 「うん、ありが……」 「無理に言わなくていいからね」  僕がペットボトルを口に運ぶと、静かに飲み始める。なんか可愛い、こんなこと考えてはいけない。  分かっているけど、可愛くて甘やかしてしまいたくなる。あれから何度か、喧嘩しているけど直ぐに仲直りしていた。  それでも流石に、週四は多いと思うけど……言葉では拒否ってるけど、瞳をウルウルされると断れない。  最近分かってきたけど、僕がそれに弱いこと分かってるんだよね。求められること自体は、いいんだけど……。 「湊……眠い」 「うん、寝ていいよ。駅に着く前に起こすから」 「う、うん……おやすみ」 「おやすみ」  僕の肩に頭を乗せてきたから、優しく撫でると静かに眠り始める。寝息が聞こえてきて、普段はカッコいいけど……。  寝顔はまるで子供だなと思って、静かに寝顔を見つめていた。まつ毛長いな……ほんと、顔が整っているよね。  そう思って彼の頬をつねってみると、眉間に皺を寄せていた。可愛い……なんか、小動物みたい。  でもあんまり調子に乗ると、後が怖いことを僕は学んでいる。いつも反撃くらって、食われてしまうから。 「流石にやめておこう」  いつもマジな、危機感を覚える時があるから……そんな感じで、京都駅に着く少し前まで見つめていた。 「起きて、着きそうだよ」 「あ〜うん、後五分……」  目を擦って眠そうにしていて、マジでキュンとしてしまった。可愛過ぎて、このまま寝かしてあげたかった。  終点じゃないから、起きないと降りれなくなりそうだよ。そう思って、僕は優しく肩を揺らして起こす。 「可愛い……じゃなくて、起きて! 降りないと」 「う〜んっ! 起きよう」  しっかりと座り直して、背伸びをしていた。まるで猫のようにしていて、金髪の猫だった。  僕がそう思って見つめていると、僕の方を見て微笑んできた。その表情がいつにも増して、キラキラしてて直視出来ない。  僕は目を逸らして荷物を持って、立ち上がると新幹線が揺れてしまう。彼が優しく、支えてくれたから転ばずに済んだ。 「立つのは止まってからね」 「う、うん……」  なんか恥ずかしい……僕が大人しく座ると、こっちを見て微笑んできた。太陽よりも眩しいんじゃないだろうか……。  今度こそ止まったから、僕たちは荷物を持って新幹線を降りた。京都は高校の修学旅行以来だから、本当に楽しみだよ。 「荷物を旅館に、置いてからにしよう」 「そうだね、ここから近いの?」 「ああ、直ぐなはずだ」  手を繋いで僕たちは、今日泊まる旅館に向かう。フロントに荷物を預けて、僕たちは京都の水族館へと向かう。  しばらく歩くと、水族館が見えてきて思わず走ってしまう。すると転びそうになった時に、彼に後ろから支えてもらった。 「危ないよ、走らないで」 「うん、ありがと……」 「どういたしまして」  僕は嬉しくなって、彼の方に向いて顔を見合わせる。頭を撫でてくれて、見つめ合っていた。  しかし夏休み期間だったから、人だかりが凄かった。周りからジロジロと見られていて、恥ずかしくなって無言で歩き出す。  それでも僕たちは、固く優しく手を繋いでいた。チケットを買いに行くだけで、混雑していて時間がかかりそうだった。 「流石に混んでるな……帝の名前で、入れないだろうか」 「やめよう……こうやって、待ってるのもいいもんだよ」 「そうか? 確かに、そうだな」  平然と名前を使おうとする彼を見て、心配になり止める。すると僕を見て微笑んでいて、顔が熱くなってしまう。  そこで疑問が生まれてしまう……苗字呼びが嫌いなのは、帝の名前が嫌いなんだよね。それなのに、都合のいい時は使う。  なんか気になったら、聞かないといけない性分なんだよね。嫌な気持ちになるかもだけど、僕は意を決して聞いてみる。 「帝の名前、使いたくないんだよね? なんで、使おうと思ったの?」 「それは愛する湊のためだよ」 「つっ……もう」  なんでそんな胸焼けしそうなセリフを、平然と言えるのだろうか。それでも優しく微笑んでいてくれて、それだけで嬉しくなってしまう。  自分たちの順番になってチケットを買って、館内に入ってパンフレットでどこに行こうか話していた。 「どこ行く?」 「イルカショーが、始まるみたいだ」 「そこから行く? 三階ね」 「そうだな、行こう」  僕立ちは繋いでいた手をより一層強く繋いで、三階までエレベーターで向かう。エレベーターも凄い人混みだった。 「苦しくない?」 「うん、大丈夫」  僕を守るように、壁ドンしてくれている。そのため辛くないから、ほんとに優しいや。嬉しくて僕たちはずっと見つめ合っていた。  周りからチラチラ見られていたけど、そんなことは僕たちには関係ない。三階に到着したから、手を引かれて歩いていく。  外は流石に暑いな……彼の逞しい腕から、汗が滴っていてカッコよかった。こんなことで、更に熱くなるとかヤバいかも。  僕がそう思っていると、彼が遠くを指差して言ってきた。前の方か……僕はいいけど、やめておいた方がいいよね。 「前の方が、空いてるな」 「うん。でも僕たちは、後ろの方がいいんじゃない」 「なんで? 近くで見たくないのか」  そんな風に純粋無垢な瞳で見ないでよ……この人、自分がどれだけデカくて目立つのか分からないのだろうか。  でもな……そんな綺麗で淀みのない瞳で、見られるとほんとのことを言うのは酷だよね……。 「えっと、前の方だと水飛沫がかかるから……ね?」 「……分かった」  拗ねないでよ……前に座らせてあげたくなるでしょ。少しムスッとしていて、それがマジで可愛い。  完全に拗ねている彼は、後ろの端っこに座る。僕も隣に座るけど、そこで横顔を見つめながら考える。  もしかして……生い立ち的に、水族館来たことなかったのかな? 僕以上に楽しみにしてたのかも。  旅行の計画を練っていた時、純粋な少年の瞳してたし。僕が普通にしていたことが、彼にとっては特別なのかな。  僕が自己嫌悪に陥っていると、頭を撫でられた。顔を見上げてみると、優しく微笑んでくれていた。 「かえ……」 「ほら、ショーが始まるみたいだぞ」 「う、うん」  もうなんで、そんなにカッコいいの? 可愛いのかどっちかに、統一してほしい。僕は目を逸らして、彼の手の上に自分の手を置いた。  あーもう、あんまり考えるのはやめよう。たったこれだけで心が、晴れていくから不思議だ。  僕が彼の方を再び見て、お互いに見つめ合う。すると、イルカショーが始まったようで歓声が上がる。

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