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第41話 ペンギン

 イルカたちの可愛い芸が始まって、僕は無我夢中で見ていた。そこでふと、昔のことを思い出していた。  小さい時に、両親と一緒に見に行ったっけ。あの時は前の方に行って、水かかったのを覚えている。  隣にいる彼を見ると、少年の顔で夢中で見ている。その表情を見て、両親に紹介したいと思った。  この旅行が終わったら、墓参りに誘おうと思う。天国から見ていると思うけど、しっかりと自分の口で伝えたい。  僕がそう思って空を見上げていると、彼に話しかけられた。目元を拭いてくれて、心配してくれていた。 「どうした? 何かあったのか?」 「あっ、欠伸だよ。ふわあ〜誰かさんと違って、新幹線で眠れなかったから」 「あー、なるほどな。ショー、凄かったな」 「え? あ、うん」  気がついたらいつの間にか、イルカショーは終わっていたようだった。全く見てなかった……。  僕がそう思っていると、隣から視線を感じて見てみる。彼が僕を真顔で、凝視していた。 「ど、どうしたの?」 「いや、別に……何かあったら言えよ」 「うん、ありがと」  彼の顔を見て微笑むと、優しく頭を撫でてくれて見つめ合った。ほんと優しくて、僕が悩んでいると思って気にかけてくれた。  年下として甘えてきたと思ったら、包容力もあって不思議だなと思う。そんな彼が僕は、大好きなのだから仕方ない。  気温もあってか、暑すぎるよ……。僕は大丈夫だって気持ちを込めて、少し弄ってみることにする。 「イルカって、可愛いよね。花楓みたい」 「えっ? 湊でしょ」 「花楓の方が、可愛いでしょ」 「湊の方が世界一可愛い」  僕たちはお互いに譲らなかったけど、僕たちは次の瞬間笑い合っていた。普段社長として、気を張っている彼が僕には子供っぽい一面を見せてくる。  そんな彼が僕は可愛くて仕方ない。そんな会話を周りからは、凄く冷めた目線で見られていた。  そのことに気がついた僕は、立ち上がると彼も立ち上がる。手を繋いで僕たちは、その場をそそくさと後にする。  とりあえず、階段で二階の展示室の方に行く。あーもう、恥ずかしすぎる……。僕は自分の手で仰いでいた。  僕が恥ずかしいと思っている横で、彼は暑いと言ってTシャツの裾をパタパタとしていた。  チラチラと見える腹筋が、少しエロくてやめてほしいと思った。僕が見つめていると、彼がニヤニヤしながら言ってくる。 「何? エロい目で見て」 「み、見てないよ! ほら、バカ言ってないで行くよ!」 「はいはい」  僕が歩いて行くと、後ろから涼しい顔して着いてくる。高身長の金髪イケメンが、ちょこちょこ着いてくるから可愛い。  僕は怒るのはやめて、優しく手を繋いで館内を歩く。大きな水槽の前に来た辺りで、段々と汗が引いてきた。 「可愛い魚たちがいるよ〜」 「……可愛いのは、どっちだよ」 「何か言った?」 「なんでもない……」  僕が水槽に右手を置いて彼の方を見て、喜んでいると何かをボソッと呟く。不思議に思って見てみると、口元を片手で覆って真っ赤にしてそっぽを向いていた。  耳まで真っ赤になっていて、変なの? と思って、僕はずっと水槽を見つめていた。なぜか隣から、視線を感じて振り向く。  彼がこっちをジッと見つめてきて、その目が少し怖かった。なんか、発情してるというか……。  獲物を見るような目で僕を見ていて、ゾクリとしてしまった。僕は無視して魚を見つめていた。  それから色んなブースを見て回って、楽しく過ごしていた。ペンギンとの触れ合いコーナーがあって、彼が興味津々に見つめていた。 「ペンギン好きなの?」 「というか、湊と撮れば可愛さが倍増するかと」 「何を真面目に……」  そんなことをしゃがみながら、見上げて言ってくる。真剣な真座差しでそう言ってくるから、あんたの方が可愛いだろと思う。 「はあ……分かったよ」 「ほんとかっ! よっしゃ!」 「恥ずかしいから、やめて……」  僕が渋々了承すると、ガッツポーズをして喜んでいた。ただでさえ目立つのに、更に目立つようなことしないでよ……。  そう思いつつも、無邪気な笑顔が言われたから従うことにする。ペンギンとの写真を、撮ったり触れ合ったりした。  ホクホクと嬉しそうにして、終わったら帰ろうとした。しかし僕は彼にキラキラの瞳を、向けておねだりする。 「花楓も撮ったら?」 「俺はいいよ」 「撮ろうか」 「はい……」  僕が精一杯の笑顔でそう告げると、彼は少し身震いしていた。どうしたのかな? 真夏なのに、暑いのに変なの。  でも若干失敗した気もする……何故なら、ペンギンの可愛さが余計に彼のイケメン度合いを増す結果になったからだ。  なんか腹立つんですけど、僕は可愛くなって……この人はカッコよくなるとか……とは思いつつ、カメラ越しの彼は輝いていた。 「どう? カッコよく撮れた?」 「うん、まあそれなりに……」 「湊にカッコいいって、思われて嬉しい!」  めっちゃキラキラした表情でそんなこと言われて、抱きしめられて嬉しくなってしまう。それと同時に周りからの視線が痛い。 「暑いでしょ……」 「そうだな」  そのため僕は目を逸らして、体を少し押してみる。一瞬驚いていたけど、僕の手を繋いで歩き出す。  嬉しそうにしていて、若干罪悪感があった。それでも流石に恥ずかしいし、単純に暑いからやめてほしい。  でもいつもの柑橘系の香りの他に、若干汗の匂いもして嬉しくなってしまう。次の展示室に行くと、クマノミやチンアナゴがいた。  彼が子供たちの後ろから見下ろす形で、食い入るように見ていた。そのため、子供たちが怯えていた。 「あー、ごめんね。怖かったでしょ」 「俺のどこが怖いんだ?」 「あのね……背を考えて」 「? だから、後ろから見てたんだが」  僕が彼の手を引っ張って、子供たちに告げる。すると彼は不思議そうに、首を捻っていた。  この人ってなんか、色々と可笑しいと思う。子供っぽいこと言ったり、でも大人な部分もあって……。  まあでも、そんなところが可愛いと思ってしまう。そんな時だった。子供の一人が、声をかけてくれた。 「お兄ちゃん、チンアナゴしゃん見る?」 「うん、見たいな〜」 「ここに来て〜いっちょに見よ」  彼が目線の高さにしゃがみ込むと、子供がとびっきりの笑顔でそう言ってくれる。天使だ……天使がいる。  彼が頷くと子供に手を引っ張れて、見に行ったようだった。子供たちが怖がらないように、今度はしゃがんで見ていた。  なんか溶け込んでいて、可愛い……癒しだなあと思いつつ、保護者の方にお礼を言って頭を下げる。 「すみません」 「いいえ、彼氏さんですか?」 「はい、そうです。初の旅行なんですよ」 「そうなんですね。いいパパになりそう」  そんな感じで談笑しつつ、パパか……楽しそうにしている彼を見て、少し想像してしまった。  僕と彼なら金髪が生まれるのかな? 目は僕似がいいな……なんて、呑気なことを考えていた。

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