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第55話 ウエディングドレス
結婚してから既に、一週間が過ぎていた。透真と律さんにも、お祝いと祝福して貰った。
「番になったかと思ったら、結婚か……パパ、嬉しい」
「もうっ、パパったら!」
「あの、金城さん……このやりとりは、ツッコんだ方がいいのでしょうか」
「社長、するだけ無駄です」
そんな感じで和やか? なムードで、僕たちは居酒屋で談笑していた。透真とのこのやりとりは、僕らにとっては普通のことなんだけどなあ。
そんな時だった。だいぶ仕上がっている透真に、言われて気がついたことがあった。
「結婚式には、呼んでよ! バージンロード歩く!」
「結婚式か……その時は、よろしく!」
「バージンロードって、何言ってんの」
「お二人の結婚式は、どのような感じだったのですか」
彼が気になったようで、聞いていて僕はあの時のことを思い出す。律さんが、ウエディングドレス着たんだよね。
可愛かったな……ブーケトスは僕が受け取ったんだよね。僕がそんなことを考えていると、彼に頭を撫でられて爽やかな笑顔で言われた。
「俺たちの結婚式の時、湊にウエディングドレス着て欲しいな」
「花楓……絶対に嫌だ」
「えっ! なんで!」
「なんでじゃないよっ! 絶対に嫌だ!」
僕が全力で否定すると、彼はムスッとしていた。確かにΩの男性も、ウエディングドレス着ることはあるよ。
あるけど……だからと言って、着るかは別の話だよ。律さんは可愛いから似合うけど、僕は似合わないでしょ。
「でも、見たいなあ〜」
「そんな、キラキラな瞳で見られても……」
「ウルウル」
「言葉で言われても……」
分かりやすくふざけ半分で言ってくるけど、その顔に僕は弱いんだよね。でも僕だって、絶対に譲れないこともある。
「詳しくは後で考えよう」
「今はそれでいいや」
「着るかは僕が決めるから」
「ちぇ……ワーリマシタ」
またこの棒読みに、不貞腐れている。それが可愛いと思ってしまう自分も、大概だと思う。
「この二人の、テンションがよく分からないんだが」
「透真は人のこと言えない」
完全に二人から変な目で見られていたけど、僕たちにはそんなこと関係なかった。僕たちは自分たちの世界に浸っていた。
次の日。蒼介に連絡しようと思ったら、何故か着信拒否になっていた。不思議に思いつつも、酷かと思ったけど自分から言うべきかと思って電話した。
「もしもし、蒼介」
「湊、聞いたぞ。結婚したんだってな。おめでとう」
「ありがとう」
「結婚式の時は、呼んでくれよな」
「うん、分かった」
おめでとうと言ってくれた。その言葉に嘘偽りはないように思えた。ほんと僕は周りに、恵まれているなと改めて認識した。
それはそれとして、ヒート休暇を貰って家にいてぼやあとしていた。彼が会社に行っている間、僕はベッドに座っていた。
「なんか、頭がぽやあとする」
段々と寂しくなってきて、泣きたくなってきた。ヒートの時に、こんな風になるの初めてでなんか怖い。
「あっ、作らなきゃ」
僕は立ち上がって、クローゼットから適当に彼の服を出し始める。匂いを嗅ぐと、柑橘系のいい香りがした。
中には柔軟剤が強いものもあって、それは要らない。匂いのしないものは、その辺に投げておく。
「これはいる……これはポイっ……これはいる〜」
そんな感じで彼の香りがするものと、しないもので選別していく。匂いをするものは、ベッドに置いて……。特に強いものと、そうでもないもので分けておく。
「あっ、洗濯してないのがいいじゃん」
脱衣所に行って裸になって、匂いが強いワイシャツを着る。うん、これならしっかりと香ってる。
「僕って天才かも!」
鼻歌まじりで寝室に行って、匂いの強いものからくるまってベッドに座る。それから適当にくるまって、彼が戻って来るのを待った。
気がついたら寝ていたようで、ドアが開く音で目が覚める。目を開けると、驚いた様子の彼が寝室に入ってきた。
「えっと、これは……」
「あっ! おかえり〜見て〜上手く出来たでしょ」
「あっ、そういうこと」
彼は困惑気味に笑って、投げられた衣服を見つめていた。もしかして、怒ってる? 僕は喜んで欲しかっただけなのに……。
「かえ、おこ……んないで」
「あー、大丈夫。怒ってないから〜大丈夫だから、よく出来たな」
「うんっ!」
僕が思わず泣き出しそうになっていると、彼が近づいて頭を撫でてくれた。目元にあった涙も優しく手で拭いてくれた。
おでこにキスもしてくれて、優しく微笑んでくれた。柑橘系の香りが、漂ってきて途端に嬉しくなった。
やっぱ服じゃなくて、直接嗅ぎたい。そう思って腕を伸ばそうと思うけど、複雑になっていて出せない。
「うわあああ」
「な、何だ! どうした?」
「手が出せない! 服じゃなくて、直接がいいっ!」
「はあ……可愛すぎる」
彼は僕のおでこにキスをして、丁寧に服などを外してくれた。段々と身動きが、できるようになった。
前の方だけ取って行ってくれて、手の自由が効くようになった。僕は嬉しくなって、思わず抱きついてしまう。
匂いを嗅ぐと柑橘系のいい香りがして、落ち着いてきた。彼に抱きしめられて、頭を撫でてもらう。
「あのさ、なんでワイシャツ着てんの」
「洗濯カゴにあったから」
「あー、なるほど」
僕が素直に答えると、彼は少し困惑していた。嫌だったのかな……そう思ったら、泣きたくなってきた。
顔を見ると怒ってはないようだったけど、困惑しているのは明白だった。ブワッと自分でも、驚くくらいに涙が溢れてくる。
「おこる?」
「だ、大丈夫だよ〜怒んないよ……こんなに可愛いのに、怒れるわけないだろ」
「そっか! 良かった! あのさ……」
「どうした……あー、そういうこと」
安心したら途端に、下半身がムズムズしてきた。モジモジしていると、優しく微笑まれた。
顎を持ち上げられて、優しく触れるだけのキスをする。足りないよ……そう思って自分から、舌を入れて絡ませた。
でも慣れてないせいか、上手く出来ない。気持ちよくない……そう思っていると、今度は彼のペースでやってくれた。
「ふあ……んっ」
「可愛い」
愛おしそうに見つめられて、僕の主張している下半身を扱いてくれた。いつも以上に気持ちよくて、声が止まらない。
首筋や耳にもキスしてきて、更に気持ちよくなってきた。柑橘系の香りも強くなって、僕は更に彼にしがみつく。
この匂い落ち着く……ずっと嗅いでいたい……耳を甘噛みされて、体がビクッと跳ねてしまう。
「いいよ、出しても」
「んっ……イクッ」
耳元で囁かれて彼の手に、白濁とした液体を出してしまう。急激な眠気が襲ってきて、意識が朦朧してきた。
それでも分かったのは、僕を愛おしそうに見つめてくる彼の瞳。優しく寝かせてくれて、彼に抱きついて眠りについた。
どれぐらい寝たのか分からないけど、目が覚めると隣で彼も寝ていたようだ。正確に言うと、僕がひっついていたから何処にも行けなかったのだろう。
「なんか、物凄く恥ずかしいことしたような気がする」
ヒートのせいで意識が朦朧していたから、ちゃんと覚えてない。だけど確実に、痴態を見せたような気がする。
「んっ、起きたのか」
「うん、その……僕変なこと言ってなかった?」
「なんで? あんなに可愛かったのに、恥ずかしがる必要ないよ」
そんなことをそんなに甘い声で、愛おしそうに見つめて言うの止めてほしい。まあでも、彼が喜んでくれたのから良かった。
なんか安心したらお腹が空いてきた。ぐうと一際大きな音が、寝室に響いてしまう。恥ずかしくて、蹲っていると抱きしめられた。
「ふふっ、ご飯にしようか」
「うん、食べる」
真っ直ぐに僕を見て微笑んでくれて、幸せだなとしみじみ思った。この人と、結婚できて本当に良かったと改めて思えた。
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