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第57話 花楓side  言いくるめ……誠心誠意お願いする

 兄さんが来て事の顛末を教えてくれたが、湊は真っ直ぐな目で話を聞くと言った。ほんと、君は強いな。 「逃げたくないです」 「ふっ……花楓は、いい人を見つけたんだな」 「ああ、湊以上の人はいない」  兄さんがいなかったら、抱いてしまうとこだった。話を聞いて色々と思考が、追いつかない。  それでも君がいてくれるだけで、俺は平常心を保つことができる。退院したら、父さんに会いに行くのか少し怖いな。  そんな俺の気持ちを知ってか、知らずか湊は優しく微笑んでくれる。冗談抜きで君以上の人は、絶対に現れない。 「広瀬さん、弟をお願いします」 「はいっ! こちらこそ、これからよろしくお願いします」  兄さんがいなくなってから、俺たちは存在を確かめるみたいに求め合った。幸せな時間を過ごして、GPSと盗聴器のことで怒られてしまった。  それでも君の体温を感じることが出来て、俺はそれだけで満足だった。いつもの如く、咲良さんに怒られたのは別の話だ。  一週間後、緊張している湊と共に実家に帰った。何度か所用で帰っていたが、あくまでも用事が終わったら直ぐに湊の元に帰っていた。  そのため自分でも驚くくらいに、緊張して不安だった。何度も心配している湊を見て、自分にも言い聞かせていた。 「緊張する」 「大丈夫だ、俺がいる」  父さんが湊と話したいと言ったから、流石に嫌だと思った。しかし湊は自分で立ち向かっていける強さがある。  廊下に出て盗聴器のスイッチを入れて、聞き耳を立てる。怒られてしまうかもだが、湊が傷つくよりかは怒られる方がマシだ。  開き直って聞いていると、父さんが俺を愛してるとかって言っていた。なんだか、複雑な感情が芽生えた。  この何十年間は一体なんだったんだ……虚無感に襲われてしまうが、兄さんの話になって我に返る。 「ああ、花舞が君に何度も言い寄っていただろ。あれは私の指示なんだ」  は? 指示したって、どれだけ湊が怯えていたか分からないのかよ。イラっとしてしまって、何も考えずに部屋の中に入った。  湊はニッコリとしていたが、完全に怒っている。あっ、ヤバい……本気で怒ってるな。 湊に会ってから段々と、後先考えて行動できなくなってきている。 「盗聴器で聞いたんだよね」 「あっ、いや……違っ」 「もう一回聞くね、聞いたんだよね」 「……はい、聞きました。すみませんでした」  本気で怒らすと、よくないと改めて認識する。色々と話を聞いて、直ぐに正式に結婚した。  帝湊か……悪くない響きだ。去年の今頃は、遠い場所にいたのに。今は誰よりも近くで、笑っていてくれる。  今まで以上に、身を引き締めて湊を全力で守り切る。この右脇腹に残った傷は、迷った時に思い出すためのものだ。  金城夫夫の結婚式の話になって、ウエディングドレスを湊に着させたいと思った。湊は嫌がっていたが、是が非でも着てほしい。  そう思った俺は早々に、酔い潰れた湊に肩を貸していた。そして金城に、聞いてみることにした。 「聞きたいんですが、湊の家庭科の成績はそんなに酷かったのですか」 「酷いなんて、レベルじゃないです……家庭科の先生曰く、マイナスにしたかったらしいです」  マイナスなんて、成績あり得ないだろ……金城曰く、他の教科だと四か五だったらしい。  なんか怖いから、それ以上聞くのは止めておこう。俺は話を逸らすことにした。 「どうしたら、湊がウエディングドレス着てくれると思いますか」 「湊は嫌がってましたけど」 「俺的には、白無垢とかでもいいと思うんですが……やっぱ、結婚式と言ったらドレスだと思うんですよね」 「人の話聞く気あります?」  ため息混じりに聞かれたが、俺には全く関係ない。とにかく、俺の質問に答えてほしい。 「ご存知だと思いますが、湊は決めたことは曲げないので着せるのは難儀かと」 「なるほど……では、言いくるめ……誠心誠意お願いするとしますか」 「今……言いくるめるって、言いかけませんでした?」  ツッコまれたが、そんなことはどうでもいい。そんな会話をしている間、奥さんの律さんはガン無視で料理を食べていた。  こっちは確か、webデザイン課だったよな。湊は自分は可愛いと、思っていないみたいだ。  湊は自分の魅力に気がついていないから、そこが可愛いんだがな……。湊の頭を撫でながら、俺は嬉しくなってしまう。  結婚式か、いつ頃するんだろうな。湊と一緒にいることしか考えてなかったから、そこまで考えてなかった。  次の日から、俺は仕事に復帰した。湊はヒート休暇を取ったため、一人で出勤した。会社に行くと、社員のほとんどが出迎えてくれた。 「社長、おかえりなさい」 「咲良さん、皆さん。ありがとうございます」  咲良さんに花束を渡されて、社員に拍手をされた。こういう時に暖かさに、触れると途端に嬉しくなってしまう。  早く湊に会いたくなったが、やることが思ったよりも多かった。兄さんが業務を、してくれていたおかげで何とかなっていたようだった。  湊のことが気になって、俺は相当なスピードで仕事を終わらせた。急いで帰ると、むせかえるようなフェロモンが充満していた。  俺も簡単にラットが、起きてしまっているようだった。寝室に入るとベッドの上で、俺の服にくるまっている湊が目に入ってくる。 「えっと、これは……」 「あっ! おかえり〜見て〜上手く出来たでしょ」 「あっ、そういうこと」  投げ捨てられた衣服を見て、俺はΩの巣作りだと認識した。ニコニコ笑顔を浮かべている湊を見て可愛くて仕方がなかった。  俺がそう思っていると、急に泣き始めた。俺は慌てて近づいて、頭を撫でると嬉しそうにしていた。 「かえ、おこ……んないで」 「あー、大丈夫。怒ってないから〜大丈夫だから、よく出来たな」 「うんっ!」  おでこにキスをして優しく微笑むと、直ぐにニコニコ笑顔になった。こんなに可愛いのに、怒るわけないだろ。マジで可愛すぎて、何でもしたくなる。  巣作りの時のΩは本性が出ると聞いたが、色々と我慢できなくなるから程々で頼みたい。  これは絶対に誰にも、見せるわけにはいかない。すると何故か湊は、子供みたいに泣きじゃくる。 「うわあああ」 「な、何だ! どうした?」 「手が出せない! 服じゃなくて、直接がいいっ!」 「はあ……可愛すぎる」  服を丁寧に退けてあげると、ワイシャツをだけ着ていた。しかも下着も穿いていなくて、大きさ的に俺のやつだった。  正直目に毒すぎて、匂いも充満してるし……色々と限界に近かった。可愛い以外の言葉が出てこない。 「あのさ、なんでワイシャツ着てんの」 「洗濯カゴにあったから」 「あー、なるほど」  それから下半身がかなり主張していて、可愛くて扱いてあげる。気持ちよさそうにしていて、俺もかなり辛かった。  ヤリたかったが、寝てしまったからお預けになってしまう。それでも無理にするのは、よくないから抱きしめて湊の寝顔を見つめる。 「んっ、起きたのか」 「うん、その……僕変なこと言ってなかった?」 「なんで? あんなに可愛かったのに、恥ずかしがる必要ないよ」  目が覚めた湊は少し恥ずかしがっていたが、気にする必要ないのに。でもそんな湊が可愛くて、仕方がない。これからも、君を守り続けるよ。

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