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第59話 どんな煌びやかなものよりも

 あからさまに怖がっている彼を見て、僕は可愛いと思ってしまった。思わず言ってしまうと、少しムッとした表情をしていた。 「怖くない、行くぞ」 「無理しなくていいよ〜」  僕がわざとらしくニヤッとしていると、彼はズカズカと歩いて行ってしまう。冗談だったんだけど、行ってしまったから僕も着いて行った。  走って行くと直ぐに、歩幅を合わせて歩いてくれた。僕は腕を組んで、目を見て歩き出す。  当たり前だけど、背がだいぶ違うもんね……歩幅も違うし、手の大きさも違う……。なんか僕の方が年上なのに、彼の方が大人っぽい。  不満じゃないけど、なんか複雑な感じがする。アトラクションが見えてくると、段々と歩くスピードが遅くなってくる。 「どうしたの?」 「あー、俺は平気だけど……み、なとが苦手じゃないやと」  あっ噛んだ、本当は嫌なんだろうな……そう思ったから、僕は立ち止まって目を見て微笑む。 「ほんとは、僕怖いの苦手なんだよね。止めようか」 「ほんとか! ……ゴホンッ、湊がそこまで言うなら止めておこう」  僕が止めようと言うと、彼はあからさまに喜んでいた。直ぐに何ともないような、感じで言っていた。  その様子が可愛くて、愛おしく感じてしまう。大人っぽかと思えば、子供のような一面がある。  そんな彼が僕は世界で一番好きなのだと、改めて思ってしまう。彼の見て再度微笑むと、彼も僕を見つめてくれていた。 「海に冒険に行くっていう、アトラクションに行く?」 「面白そうだなっ! そこに行こう!」 「うん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」  子供のような、無邪気な笑顔で言う彼が可愛い。僕たちが行くと、相当混んでいるようだった。  僕たちはフリーパスを買っていたから、ドンドンと前に行くことが出来る。待っている時間もいいけど、ゆっくりしたいから。  それにこの後、パレードがあるんだけど……その時間に合わせて、調節する必要もあるからね。 「この潜水艦に、乗るのか」 「うん、魚たちが見えて楽しいよ」 「魚か……水族館とは、違うのか」 「う〜ん、まあ見てみよう」  何やら色々と難しく考えていた彼を、引っ張って乗り込んでいく。中に入ると、異次元のような感じがした。  水族館とは違って、海の中にいるような臨場感を味わえた。彼を見ると、少年のような瞳でワクワクしていた。  彼が喜んでくれているようで、僕も嬉しくなってしまう。いつまでも、子供のような感性を持っているって武器だと思う。 「湊、ここって写真撮っていいのか?」 「いいみたいだよ。他にも撮ってる人いるし」 「じゃあ、一緒に撮ろう」 「うん、いいよ」  僕が了承すると肩を抱かれて、ピースをして写真を撮った。それから何枚も撮ったけど、今更だけど魚たちを撮らなくてよかったのだろうか。  そう思って彼を見上げると、嬉しそうに微笑んでいた。彼が喜んでくれているのなら、それでいいかと納得する。  外に出ると暗くなってきて、肌寒くなっていた。雪も降りそうになっていて、ホワイトクリスマスになると嬉しいな。  時間的にちょうどよく、パレードの方に向かった。思ってたよりも人混みが多くて、逸れないようにしっかりと腕を組んだ。 「人多いね」 「ここのは、関東で一番大きなパレードらしいぞ」 「そうなんだよね! だから、見せたくて」  彼がいつの間にか、スマホで調べていたようだった。楽しんでくれるかな? と思っていたけど、予想以上に喜んでくれそうだ。  僕が目を見て微笑むと、彼が本気で楽しんでくれているように見えた。その様子が可愛くて、嬉しくなってしまう。 「クシュン……」 「寒いだろ。あとで渡そうと思ったけど、これ巻いておいて」  そう言って首に巻いてくれたのは、朱色と黒の手編みのマフラーだった。暖かくて彼の気持ちが、篭っているように感じた。  僕は彼の目を見て微笑んで、嬉し過ぎて抱きついた。彼に頭と腰を支えてもらって、僕たちは抱き合った。 パレードが始まっていたけど、僕らは自分たちしか見ていなかった。どんな綺麗なものよりも、彼の方が綺麗だと感じた。 「あっ、雪だ」 「ホワイトクリスマスか……」 「うん。綺麗だね」 「ああ、綺麗だ」  パレードの光やイルミネーションに、雪が綺麗なコントラストを作っていた。なぜか彼は僕を見て、綺麗だと言っていた。  変なのーと思ったけど、僕たちは身を寄せ合ってパレードを見ていた。終わったのを見計らって、僕たちは観覧車に向かう。 「思ったより、空いてるね」 「そうだな」  観覧車に乗り込んで、同じ方向に座る。寒かったから、僕は彼にくっついて温まっていた。  外にいた時よりも、柑橘系の香りが強く感じることができる。彼を見つめていると、僕を見て優しく微笑んでくれた。  頭を支えられて抱きしめられて、優しくおでこにキスをされる。愛おしそうに見つめられて、今度は触れるだけのキスをされた。 「やっと、二人っきりになれた」 「そうだね……楽しかった?」 「もちろん、湊といればどこだって楽しいよ」  耳元で囁かれてくすぐったかったけど、彼が喜んでくれてよかった。ちょっとだけ、予定が変わってしまった。  それでもパレードと、観覧車には乗れたから結果ーオーライだよね。彼の鼓動が、僕のよりも早くて益々ドキドキしてしまう。  僕たちは見つめ合って、微笑み合う。彼の後ろから、煌びやかなイルミネーションが見える。 「見て、イルミネーションが綺麗だよ」 「ああ、綺麗だ」 「見てないでしょ」  彼はイルミネーションを見ずに、僕のことしか見ていない。少し変だなと思って、聞いてみるとまたもや歯の浮くようなセリフを言う。 「どんなに煌びやかものよりも、湊の方が何十倍も美しいよ」 「花楓の方が、綺麗だよ」 「湊の方が!」 「花楓の方が!」  そんな感じで僕たちは、お互いのことが綺麗だと言い張った。しばらくの間、僕たちは一歩も譲らなかった。 「あはは」 「ぷっ、最高だわ」  頬を膨らまして拗ねている彼が可愛くて、僕はつい笑ってしまった。すると彼も笑い始めて、僕たちは抱き合ったままで笑い合った。  僕は急にキスをしたくなって、自分からキスをした。すると今度は彼に、舌を入れられて絡められた。  いやらしい水音と、強くなってくる柑橘系の香り……もっとしてほしいって思ったら、急に離された。 「もう少しで、着くから続きはまた後でね」 「うん、分かった……」

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