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第76話 私の夫です

「おはよう、湊」 「おはよ〜もう少し、寝たい」 「いいよ。もう少し、ゆっくりしよっか」  そんな感じで、ゆっくりしたんだけど…‥ほんとに、遅くなってしまった。気がつくと、十時になっていた。  着替えながら僕は、一人で項垂れていた。そんな僕を見て彼は特に、気にすることもなく鼻歌を歌っていた。 「ごめんね、僕のせいで……」 「いいよ、それに今日は。直ぐにクルーズ船に、乗るつもりだったし」 「クルーズ船か……って、スーツ着るの?」 「ああ、ドレスコードがあるから」  船なのにドレスコードって、凄いな……しかも、プールまであるらしく楽しめる設備が多い。  もはや、いつの間に僕の分のスーツを用意してたのかは……聞かないことにする。一々ツッコむの、疲れたから。  楽しみになって、鼻歌歌う気持ちも分かるよ。僕たちはひとまず、着替えて朝食というかブランチを食べに一階に向かう。 「お腹空いた〜」 「俺もだ。ここのカフェでいいか」  流石に朝食のバイキングは、終わっているようだった。そのため、僕たちはカフェに入る。  僕はサンドイッチとカフェオレ、彼はトーストセットとコーヒーを頼んだ。僕たちはムシャムシャと食べていた。 「このサンドイッチ、美味しい」 「ここはパンにも、拘ってるからな」 「うん、最高〜」  ブランチを食べ終わった僕たちは、近くの店までショッピングに向かう。色んなものが売ってあって、僕は適当にぬいぐるみを手に取る。 「可愛い〜これ、透真にどうかな」 「……呪いの人形?」 「ち、がうと思う。多分……」  一瞬可愛いと思ったんだけど、そう言われれば……不気味な感じもしてくる……まあいいか、律さんにもお土産に買ってと。  蒼介にも買って行ってあげよう。何かと心配かけていると思うし。僕たちもお揃いで、買うとして。 「花楓は?」 「俺はこれがいいと思う」  彼が手に取っていたのは、変なお面のストラップだった。僕が言うのも可笑しいけど、センスどうなっているのかな?  まあいいか、こういうのは気持ちの問題だから。僕たちは他にも、お菓子や色んなものを買った。  一旦ホテルに戻って、スーツに着替えることになった。いつものことながら、食い入るように見てくる目線を気にせずに着替える。 「水着と、他何か必要なものある?」 「んー……一晩泊まるから、使うものぐらいだな? これとか」  そう言って彼が鞄から取り出したのは、ゴムだった……深く気にしないことにして、僕は必要なものを準備する。  僕がスルーしたから、軽く不貞腐れていた。もうっ、朝ぱらっから……朝じゃないけど、いい加減にしてよ……。 「準備できたなら、行くよ」 「分かりましたー」  若干不貞腐れている彼の腕を引っ張って、エレベーターに乗り込む。もう子供なんだから……とは思いつつも、浮かれてしまう。  彼を見ると穏やかに笑っていて、嬉しくなって腕を組んだ。一階に到着したから、僕たちはホテルを後にする。  海辺を歩いて僕たちは、クルーズ船が停泊している場所に到着する。遠くから見てもデカそうだったけど、近づくと大きすぎて腰が引ける。  たくさんのお金持ちそうな人が、集まっていた。彼はいいとして、僕はあそこに並ぶの気が引ける。そう思っていると、彼に腰を支えられた。 「湊、行こう」 「う、うん」  彼が笑顔で手を引いてくれたから、嬉しくなってしまった。列に並んでいると、白髪の外国の人に英語で声をかけられた。 『帝さん、お久しぶりです』 『お久しぶりです。お変わりないようで』  そんな感じで談笑していて、多分取引先の人かな? そう思っていると、彼が僕のことの肩を抱き寄せて紹介してくれた。 『彼が私の夫です。機会があれば、紹介しようと思ってました』 『初めまして、帝湊です。よろしくお願いします』 『こちらこそ、よろしくね。彼は真面目な人だから、気負いすぎるとこがあるから見てあげてね』 『はい、ありがとうございます』  僕が頭を下げると、ニコリと微笑んで自分の列に戻って行った。どんな間柄か分からないけど、紹介してくれたのは嬉しい。  再び彼の腕に組んで、見上げて見つめ合った。そこで僕は彼に、気になったことを聞いてみる。 「取引先の人?」 「違うよ。大学の時の教授で、恩師」 「あ〜なるほど」  大学の時か……考えてみたら、昔のこと少し聞いただけで大学とか聞いたことないな。僕の知らない彼をもっと、知りたい。 「大学時代って、どんな感じだった?」 「ん〜普通だったよ」  多分……僕の普通と、この人の普通は乖離してそう。あの親バカな父親は、彼を甘やかしてそうだし。  問題は彼がそのことに、全く気がついていないことだけど……そこは触れないでおこうと思う。  まあいいや、ちょっと聞いてみたい。そう思って僕は、待っている間にちょっと聞いてみることにした。 「大体でいいから、聞きたい」 「そうだな……朝起きて、学校行って帰る。みたいな感じか」 「何それ……遊びに行ったりは?」 「興味なかったからな」  本当に興味なかったんだろうな……変な納得感があったけど、やっぱ気になってしまった。 「僕もないけどさ、趣味とかないの」 「特にないな……相手に合わせてきたから」  相手か……考えてみたら、僕以外にもお付き合いしてた人とかいるよね。中学の時に、一目惚れしたって言ってたけど……。  それから数十年経っているわけだし……こんなに魅力的なんだから、僕の他にもいたよね……。  僕だって蒼介と、付き合っていたわけだし……頭では分かっていても、どうしても気になってしまう。  聞きたくないけど、気になってしまう。僕は気になったことは、聞かないと仕方なくなってしまう性分なんだよね。 「湊、積もる話は後にして行こう」 「うん、そうだね」  僕が悩んでいると、列が動き始めたようだった。彼と腕を組んだままで、クルーズ船に乗り込んでいく。  個室が用意されているため、僕たちは自分たちの部屋に入っていく。僕は窓を半分開けて、外の空気を吸っていた。  すると後ろから抱きしめられて、耳に息を吹きかけられた。変な声が出てしまって、恥ずかしくなってくる。

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