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第80話 ブライダルエステ
結婚式まで後一週間になった。新婚旅行から帰って来てから、僕は彼に言われてブライダルエステをしていた。
いつもよりも激務をしている彼に、申し訳ないと思っていた。しかし僕は黙って、言うことを聞くしかなかった。何故なら……。
「新婚旅行で、日焼けさせてしまったから! しっかりと、うる艶にしてもらうんだぞ!」
「あーもう、分かったから!」
完全に彼の押しという名の、圧に負けて約一週間のペースでエステを受けた。その結果、見違えるような艶々肌になった。
それはいいんだけど、彼に全身を食い入るように見られている。浴槽に入って後ろから、抱きしめながら……。
「マジで綺麗だ」
「喜んでくれるのは、嬉しいんだけど……そんな間近で見なくても」
「結婚式まで後少しだからな」
ほんと、人の話聞く気ないよね。まあ、いいか……浮かれているのは、彼だけじゃないから。
僕だって、早く結婚式をしたいから。後ろから抱きしめてくれている彼を、振り向いて見つめる。
「楽しみだね」
「ああ、湊……愛してる」
「僕も愛してる」
そのまま見つめ合って、彼の方に向いて軽く触れるだけのキスをした。そのまま抱きついて、僕たちは幸せを噛み締める。
早いもので結婚式当日になった。僕たちは準備が出来て、来賓の皆さんをお出迎えすることになった。
式の受付を透真と律さんにお願いしたんだけど……ここで一つ、問題が起きてしまった。
「湊があ! 結婚っ! ズビッ……」
「透真、流石に泣きすぎ」
「だってえ〜 ズビッ……」
そんな感じで終始泣きじゃくっている透真に、冷ややかな目線を送っている律さん。受付どころじゃない。
そんな様子を見て式場の人も、完全に引いていた。そんな中、彼はどこ吹く風でこんなことを聞いてくる。
「金城さんは、何で泣いてるんだ」
「透真は昔から、入学式や卒業式で号泣してたから」
「卒業式は分かるが、入学式って……」
彼の疑問はごもっともだけど……そのことについては、触れるのは止めておくことにする。
透真のご両親も来てくれていて、泣いている息子を連れて行った。仕方ないので、早めに来てくれていた咲良さんと佐々木さんが受付をしてくれることになった。
「お二人とも、よろしくお願いします」
「はい、今日は主役なので湊さん。気にせずに、楽しんでください」
「おめでとうございます! お手伝いなら、お任せ下さい!」
僕は二人に頭を下げて、彼と共に控え室へと向かう。僕は椅子に座って、彼がその隣で立っていて笑っていた。
見つめ合っていると、ドアがノックされて花舞さんとお義父さんが入ってきた。僕は立ち上がってお二人に、頭を下げると挨拶をされた。
「湊さん、結婚おめでとう。花楓も、本当におめでとう」
「兄さん、ありがと」
そう言って笑顔で握手していて、前よりも仲良くなっているように感じた。その後ろでお義父さんも、暖かい目で微笑んでいた。
僕が嬉しくなって見ていると、お義父さんと目が合った。すると優しく微笑んで、声をかけてくれた。
「湊くん、おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
「本当は妻も来れればいいんだが……」
お義母さんはギックリ腰になってしまったらしく、結婚式に来れないらしい。彼としても複雑らしく、あまり来てほしくないようだった。
僕には分からないような、関係があるんだろうな。それでもいつか、紹介してくれると嬉しいな。
「大丈夫ですよ。お加減は」
「大したことはないよ」
「それならよかったです。お大事にと、お伝えください」
「ありがとう。伝えておくよ」
そんな感じで談笑していると、控え室のドアがノックされた。中に入ってきたのは、蒼介と男性と手を繋いでいる幼稚園ぐらいの男の子だった。
久しぶりに会った蒼介は、元気そうだった。僕は嬉しくなって、声をかけようとすると彼に手で制止された。
ニコニコ笑顔の彼だったが、物凄く嫌な予感がした。その予感は的中してしまったようで、大人気ないことを言い始める。
「俺は心が広いから、招待したが。大人しくしとけよ」
「ああ、なるほど……。何か勘違いされているようですが、俺は湊をお祝いしにきたんですよ。社長のことなんて、どうでもいいんですよ」
「ほう……言いますね」
蒼介も負けじと冷戦みたいな感じだった。一緒に入ってきた男性の方も、オロオロとしていた。
確か僕が営業部を辞めてから、入ってきた部長さんだったような気がする。
そんな二人の喧嘩を見て、お義父さんもお義兄さんも目を点にして驚いているようだった。
こんなお祝いの席で、喧嘩売るなんてあり得ないよ。買う方も買う方だし……小さい子もいるのに、大の大人がみっともない。
彼からしてみれば、蒼介は微妙な立場なのも理解は出来る。なんか無性に腹が立ってきたから、僕は微笑みながら言いたいこと言った。
「二人とも、いい加減にして」
「はい……すみませんでした」
「ごめんなさい……」
僕が怒ると喧嘩していた二人は、借りてきた猫のように大人しくなった。はあ……もう、いい大人が何しているのやら。
そこでお義父さんとお義兄さんが、更に不思議そうにしていた。頭を下げて控え室を後にしたので、僕も頭を下げた。
二人を睨むと、少し目を逸らして彼は下手な口笛を吹いていた。僕は咳払いをして、蒼介と一緒に来た男性に話しかけた。
「初めまして。本日は来てくださり、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いします。営業部部長の東雲雷牙と申します。こっちは、息子の輝です」
「アキラです! よろしくお願いします!」
「輝くんか、よろしくね」
僕は東雲さんに頭を下げて、輝くんの目線にしゃがんで挨拶をする。すると屈託のない澄んだ瞳で、ニコリと微笑んでいた。
あまりの可愛さに、心が浄化されていくようだった。もしかして、今回ベールボーイしてくれる子かな?
そう思って聞こうとすると、輝くんが蒼介の元に走っていく。かなり親しそうにしていて、なんか歳の離れた兄弟みたいだった。
「そーすけくん! 遊ぼっ!」
「輝。いい子だから、大人しくしとくんだぞ」
蒼介は輝くんの目線に、しゃがんで話していた。そこに東雲さんが近づいて、輝くんを諭すように言った。
「そうだぞ。輝、今日は大事な役目があるんだからな」
「ふんっ、パパはいつもそうやって遊んでくれない。そーすけくんは、違うもんっ!」
「やーい、息子に嫌われてやんの」
「ぐすん……」
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