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第82話 見守ってくれている
「もうっ! 透真の分からず屋!」
「律も少しは、俺の話を聞けよ!」
「何その言い方! 自分が悪いの棚に上げて!」
「湊に聞いてみれば分かる!」
「そうやって、直ぐに味方につけようとする!」
よく分からないけど、今来ても何も出来ないよ。そのことに気がついたのか、二人の勢いが弱くなった。
僕らの変な空気に何にも言えずに、黙ってしまった。どうでもいいけど、人の結婚式で喧嘩は止めてほしい。
僕らのその空気に耐えきれずに、輝くんが欠伸をしていた。可愛いんだけど、今はリアクションに困る。
そんな空気は、プランナーさんが来るまで続いた。言いづらそうにしていたけど、式の準備ができたようだった。
「あの皆様……式の準備が整いましたので、会場の方にお願いします」
「は、はい。分かりました」
プランナーさんの言葉を皮切りに、透真と律さんと僕と彼以外は控え室を後にした。その後も沈黙が続いたから、僕は意を決して聞くことにした。
「あのさ……喧嘩の原因、何だったの」
「何だっけ?」
「忘れた……」
「とにかく、式に行こう」
彼の言葉に頷いて僕たちは、チャペルまで向かう。先に彼と律さんが、中に入って行った。
僕と透真はバージンロードを歩くために、プランナーさんから段取りの説明をしてもらっていた。
「グスッ……」
透真の啜り泣く声と、鼻をかむ音が煩くて集中できない。それでもプランナーさんは、気にせずに段取りを進めている。
きっと同じような人多いんだろうな……そう思っていると、ベールボーイの輝くんが東雲さんに連れられて来た。
「輝くん、お願いね。この泣いているお兄ちゃんのことは、無視していいからね」
「うんっ! 頑張るよっ!」
「息子が酷いっ!」
周りからは、不思議そうな目線で見られる。そりゃあそうだ……僕らにとっては、このノリは普通だけど。
他の人からしてみれば、意味が分からないことこの上ないからね。この場を収めるために、僕は透真の目を見て宥めることにした。
「透真、今までありがとうね。これからも、よろしくね」
「みな……グスッ……息子がこんなに立派になって、パパ嬉しい!」
「……もう、知らない。無視して始めよう」
透真の声が思ったより、大きかったようだった。そのためか中にいる人たちが、クスクスと笑っているのが分かった。
はあ……気がつくと、ベールの方が準備出来たようで入場することになった。相変わらず泣いている透真を、無視して進行することにする。
泣きじゃくって啜り泣いている透真と共に、腕を組んでバージンロードを歩いていく。前には泣いている透真に関して、全く興味も持っていない彼が笑顔で待っていた。
「金城さん、今までありがとうございます。これからも、俺が湊を支えますので」
「はい、お願いします……ズビッ」
「……とりあえず、透真は鼻かんで」
呆れた様子の律さんが透真を連れて、家族席に座った。透真の両親を見ると、こっちを見て微笑んでいた。
その手には、僕の両親の遺影を持っていてくれた。両親が、見守ってくれているように思えた。
その間も透真は泣きじゃくっていて、律さんに鼻をかんでもらっていた。僕は心の中で呆れていたけど、彼に手を差し伸べられてその手を掴んだ。
「湊、行こう」
「うん」
牧師さんの前に行くと、神聖な感じがした。讃美歌と言われる歌をみんなで歌って、牧師さんの聖書の朗読が始まった。
詳しくは分からないけど、大事なことだからしっかりと聞いた。彼の手が少し震えていて、顔はポーカーフェイスだった。
でも僕には分かるぐらいに、緊張しているようだった。僕は何か可愛く思えて、緊張が解けていくように感じた。
「誓いますか?」
「はい、誓います……湊、誓って」
「あっ、うん。誓います」
違うことを考えていて、完全に聞いていなかった。彼の優しい声で我に返って、彼の顔を見て誓った。
指輪の交換になって、咲良さんと佐々木さんが指輪を持って来てくれた。それをそれぞれ受け取って、彼が僕の左手の薬指に嵌めてくれた。
僕は彼の左手の薬指に嵌めようとするけど、不器用なのか嵌めることが出来ない。慌てると余計に、上手くいかなくなってしまう。
すると彼が優しく微笑んで、僕の手に右手を重ねてくれた。そのお陰で深呼吸できて、ゆっくりと嵌めることが出来た。
「誓いのキスを」
牧師さんがそう言うと、彼がベールを上げてくれた。僕は背伸びをして、彼がしゃがんでくれて優しくキスをした。
来賓の人たちから拍手喝采が、降り注ぐ中僕たちはチャペルを退場する。僕たちが退場して、控え室で化粧直しをしてもらった。
スタッフさんたちの、準備が終わるまで控え室で待っていた。僕が椅子に座っていると、後ろから抱きしめられた。
「指輪嵌めるのって、緊張するんだね」
「ああ……正直、心臓がバクバク言ってて話半分だった」
「ふふっ……僕もだよ」
僕がそう言うと優しく微笑んで、後ろを向いてキスをした。準備が出来たようで、僕たちはチャペルの前のから再び来賓の人たちの前に登場する。
拍手をしてもらっていると、穏やかな笑みを浮かべているお義兄さんがブーケを持って来てくれた。
「おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
僕はブーケを受け取って、彼を見て微笑み合った。後ろを向いて、ブーケを勢いよく投げた。
彼に肩を抱かれて前を向くと、ブーケトスを蒼介が受け取ったようだった。後ろから蒼介の肩を抱いて、嬉しそうにしている東雲さんがいた。
その横で、喜んでいる輝くんが目に入ってくる。僕は嬉しくなって、彼と共に微笑んだ。
「おめでとう!」
たくさんの人に、祝福してもらった。お花が舞っているフラワーシャワーの中を、腕を組んで歩いている。
今日はいい感じに天気が良くて、気温もいいから外で立食パーティをすることになった。雲一つない晴れやかな空で、これからの僕たちの未来を祝福してくれているように思えた。
「湊、おめでとう」
「蒼介、ありがとう」
僕と彼が仕事関係の人に、挨拶していた。そんな時に蒼介たちに、声をかけられて談笑し始める。
「湊が〜う〜ズビッ」
「透真はまだ、泣いてるの」
「いい加減にしてほしい」
「相変わらずだな……」
四人で話すの久しぶりだったから、とても懐かしく思えた。その間も、彼が小判鮫のようにくっついて来ていた。
この場合、大きいから大判鮫かもしれない。しかも構ってほしいようで、頭に顔を乗っけてきた。
その光景を傍から見ると、面白いんだろうな……。と思って、敢えて少し無視することにした。
「構って」
「あーはいはい」
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