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(や、やばい、すげぇ見られてる。少女漫画が好きって引かれてるかも)
雑誌もそうなら単行本もどこをどう見ても少女漫画だ。土曜日の男子高校生が大事そうに抱えていたアニメ漫画グッズ専門店の袋の中に少女漫画、言い逃れができると思えないが、イマジナリー妹をでっちあげてここを乗り切るか、はたまた母のおつかい、などと苦しい言い訳が頭の中をぐるぐる巡る。まさか君に似たイケメンが登場する少女漫画を愛読して日々ときめいています、なんて口が裂けても本人の前では言えなかった。ちょっと間があって、日比野が長い指ですっと表紙の端っこを指さした。
「もしかして日比野も『スーパーノヴァ』好きなの?」
そこには実在するボーイズグループの写真が載っていた。
「え、ひゃい?」
「え、あ。違うか。俺、勘違いして、はずっ」
照れで口元を拳で覆う仕草も格好が良くて、新しいスチルを見たみたいにそっちに感動してしまったが、よくよく表紙を見たら確かに『スーパーノヴァ』が載っていて納得した。
漫画『ボーイズ☆ステージ』の作者の先生が大人気ボーイズグループ『スーパーノヴァ』の大ファンで、最近など絵柄も彼らの顔面に寄せているのでは、と噂が囁かれていたほどだ。今月号では単行本の帯と雑誌のシールを一緒に送ると有償ではあるが彼らと『ボーイズ☆ステージ』のアキとミツキが一緒に載った新規絵のクリアカードがもらえるのだ。真秀は普段は単行本派だが今回それ欲しさに雑誌を買ったといってもいい。
「あ? あ、ああ。『スーパーノヴァ』」
一瞬意外な相手からその名前を出されたせいで、何を言われたのか分からなかったが、色々多い情報量を整理し、気持ちを落ち着けるために濡れた顔までタオルでごしごしっと擦ってすっきりさせてから顔を出した。
「『スーパーノヴァ』好きだよ。楽曲どれもいいし、デビュー曲のあのエモい奴とかプレイリストの先頭にいつもおいてて通学中聞いてるよ」
「俺もいつも最初にあれきく」
「おんなじだあ」
まさかこんなところで憧れの相手との接点があるとは思わなくて、さっきまで声をかけようかどうかと悩んでいたことなど忘れて真秀は意気揚々としゃべり始めた。普段はこういう風に食い気味に話すとひかれると思って抑えているのだが、今日はもう嬉しくてテンションが上がってしまった。
「みんな背も高くて顔も爆イケだし。ダンスのスキルもすごいよね。年上のメンバーも年下のメンバーもみんな仲良くて和気あいあいとしているの和むし、最近CMでも雑誌でも見ない日ないし」
すると日比野が教室では見たことがない程、クールというより人懐っこい笑顔を浮かべた。
「そうなんだよ。日本だけじゃなく、世界中にファンが増えてるし、こないだ出たアルバムのコンセプトも神がかってたし、次のツアーでこっちきたら、絶対に行こうと思ってたんだ。こんな身近に『スーパーノヴァ』の話できる奴がいるとは思わなかった。俺、実は『ステラ』なんだ。小さい頃から姉貴と母親の影響で色んなグループのコンサート行くことが多かったんだけど、最近じゃ家族で『スーパーノヴァ』に嵌ってる。オーディション番組の時から」
ステラとは『スーパーノヴァ』のファン名のことだ。日比野が本物のファンなのだと納得してしまった。それと共に生き生きと目を輝かせて好きなものの事を語る日比野に触発されてしまった。高校の同級生には少女漫画が好きなことを黙っていようかと思ったのだが、思わずうんうんと大きく頷いた。
「実はさ、僕は『ボーイズ☆ステージ』から『スーパーノヴァ』知ったんだよね。先生が『スーパーノヴァ』を輩出したオーディション番組からヒントを得て漫画を描いたって言ってたから、デビューまでの道のりが分かる番組も全話みたし。最後とか泣きそうになった」
「俺もたまに見返すほど見てる。こないだオーディションの時の番組の主題歌の曲やったSNSライブみた?」
「見た! もうさ、レイ君あの頃より、パフォーマンスすごく上手くなってたよね」
「身体が大きくなってて、ボーカルも安定してたな。成長期だし」
「だよね。番組参加した頃って、今の僕たちと年同じかもしかしたらちょっと下だよね」
「たしか、そう」
「僕が同じ立場だったら、あんな風に年上のライバルたちの中で一発勝負のライブにかけて、ふるい落とされないように必死で練習してってできるのかなあって思う。見ると胸がぎゅうっと苦しくなったり、熱くなったり。仲間がいるっていいなあ、夢を追いかけられるっていいなあって思うんだ。特にさ、絶対的に相手を信頼し合ってる、アキとレイとか、他にも相性のいい二人の仲良しライブとかああいうの、見守るのが好き。なんか胸がぽかぽかしてくるんだ。で、すげぇ羨ましくなる。僕もああいう人が欲しいなあって思う」
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