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 高校に入ってからも中学生の時も、そこそこ仲の良い友達はいたけれど唯一無二の存在というのはいなかった。  学区域ぎりぎりの中学校に入学したせいもあって、周りはもう関係性が出来上がっていたからというのもあるだろう。部活に入らず、打ち込めるものがなかったり、そこで仲間づくりができなかったせいもあるかもしれない。  今も昔も小さな教室の中で、その時だけなんとなくしゃべる友人達とは話が合わず、趣味の仲間ができたこともなかった。  ただ真秀は小学生の頃から地元のダンスサークルには所属していて、女の子ばかりのチームの中で地域のイベントで踊ったりはしていた。そこで女の子たちが嵌っていた『ボーイズ☆ステージ』を貸してもらい、ドはまりしたのだが。それも受験生だった去年は一年休んでしまい、ごく最近復帰したばかりだ。そこで気の合う男子メンバーがいてくれたなあと思う。 「分かる。俺もそう思う。佐倉が言葉にしてくれて良く分かった」 「分かる? あーよかった。伝わって。でも、日比野君はさ、クラスの中でも陽キャ集団に馴染んでるじゃん。女子とも気楽に話してるし。僕はちょっとあのノリ無理。楽しそうだなって思うけど、中には入れない」 「馴染んでるように見えるか? 会話が合わなくて、いまいちかみ合わんから喋ってないだろ。あいつら二言目にはやりたいだの、女子と遊びに行くからお前も来いとか」 「あー。確かに。日比野君来たら女子の参加率高そう」 「面倒だろ、そういうの。だからまあ、興味ある話しか喋らん」 「なるほど。だから無口なんだ。ずるいな、イケメンは。喋んなければクールっていって女子にキャーキャー言われて、男子に一目置かれるなんて、顔面強つよのやつはこれだから」  日比野がもう一度すっと腕を伸ばしてきた。タオルを受け取ろうとしているのかと思って顔ごと差し出したら、頬を指の背でなぞられた。 「ひぎゃ?」 「なんて声出してんだよ。ここ。さっきタオルで擦っただろ。ちょっと赤くなってる。あんま柔らかくないタオルでごめんな」  すまなそうに少しだけ眉をひそめてそんな風に言われたら、顔面の暴力にはたかれて血でも吐いてしまいそうになる。 (前言撤回! 顔面だけじゃない。多分こういうこと無自覚に女子にしてるんだろうな。沼だ、沼。こいつまだ高一のくせして沼男要素がありすぎ)  だが、嫌じゃないから困ってしまう。多分真秀はちょっとだけ、女子より男子の方が好きだという自覚が自分でもあるから重ための前髪で表情を隠そうと俯いた。 「お前こそ大分喋るとイメージ変わるな。すげー喋るじゃん。面白い」 (しまった。べらべらと喋りすぎた)  中学も高校も当たり触らず、人から嫌われることもなければ取り立てて死ぬほど好かれることもなく、どこにでもいそうなモブキャラとしての自分を自覚してきた真秀は、今初めて自分自身の持ちうる全てでもって、人と喋っている気分になった。 「……なんかねずっと周りの男子でこういうの話せる相手って中々いなかったからさ。女子とは喋れたけど、女子は大体女子の友達が一番になるだろ。男子はなんか、みんなもっとなんかけっこう生々しい恋バナばっかしてるし、少女漫画好きとか言えなくて。あんなの読んで面白いのとか言われたら……、俺怒って相手との関係悪くなるかも」 「佐倉って大人しいんだかはっきりしてるんだかわかりづらいね」 「よく言われる。明るいんだか暗いんだかわからないって。でもそんな風にどっちかで割り切れないだろ、人間は」 「急に哲学的だな。お前面白い」 「あー、でました。面白い奴貰いました。イケメンがいうとやばすぎる」 「あはは、なんだそれ。でもさ、いいだろ。別に今どき少女漫画が好きなぐらいで誰も引いたりしないだろ。引くならそいつが駄目だって」 「でもさ、『ボーイズ☆ステージ』はさ、ちょっとあの……」  少年同士の熱い絆を描いているというとそれまでだが、お互いの事を想いすぎて時には嫉妬をしてしまうことまである描写が、いわゆる少しだけBL寄りだと言われているのだ。少女漫画でさらにBL要素にも萌えて居るとは流石にちょっと言いにくい。説明が難しい。男子高校生が少女マンガ好きでBL要素に萌えているって、ひっくり返って寝転んでまた立ちあがって右向いて、見たいにややこしい。 「BLっぽいってこと? 別に姉貴の部屋いったらそういう漫画沢山あったから慣れてる」 「ああ、そうそう。そうなんだけど……。その単語日比野の口から聞くとなんか衝撃強すぎ」 「なんで?」 「だってさ、だって……」  改めてまた顔を見たら、まるで自分が『ミツキ』で『アキ』に話しかけられているような妄想に囚われたのはオタクの妄想力のたまものだ。まあミツキみたいに『きゅるん』と擬音が付くような顔では日比野を見つめていないと真秀は思うが。

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