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「こんな綺麗な肌してる奴に言われたくない! デコにニキビできやすいから前髪下ろしてるだよ。察しろよ」 「前髪があると刺激で余計にニキビできやすい気がするけどな。もう一人の姉貴が美容師で、そんなこと言ってた気がする。」 「そうなの? どうしたら日比野みたいな綺麗な肌になるかな……。」 「俺は元々肌が強い方だけど、姉貴たちが買ってくるやつ適当に使っている」 「肌まで強い……」 「今度姉貴の美容室一緒に行ってみるか?」 「うん」  はあ、神様は不公平だと呟き項垂れたら、顎をくいっとすくわれた。  そして教室では見かけたことのなかった日比野の蕩けるような満面の笑みが視界に飛び込んでくる。 「なあ、佐倉、俺もさ。心から信頼出来てなんでも……、好きなものも、嫌いなものも何でも話せる相手が、ずっと欲しかった」    まるでキスでもされるようなゼロ距離感から繰り出される、日比野の本心。腕の中から上目遣いに見上げた真秀はその顔をしっかり見つめたいと、自ら前髪をかき上げる。背中に回った腕が温かいから自分も背中に腕を回した。外は雨が上がっていたのか、光が窓から差し込んできた。 「ならないか、俺たち、そういうのに」  そういうのの中にはどこまでが含まれているのだろう。 (キスはしちゃ駄目だろうな。でもなんかしたいなあ。こんな距離で抱き合って見つめあうって、これは恋なんじゃないかと思うんだけど)  しかし今、確認しなくてもいいかなとも思った。アキとミツキだってオーディション編を通して色んな試練に立ち向かいながら少しずつお互いの存在を認め合っていったのだから。 「いいよ。なろう。そういうの」    日比野がニコッと微笑んだ年相応の笑顔は可愛くて、真秀はアキの分身みたいに思い込んでいた日比野を、その時初めて自分と同じように悩んで好きなものを全力で楽しんでいる同い年の少年だと自覚した。 「じゃあ、僕らのちょっとした試練編としてさあ。日比野、僕と一緒に文化祭のステージ立ってみない?」 「え?」 「さっきの曲。僕がダンスの先生ともうちょっと簡単に二人用にアレンジした振りつくるからさあ。僕と一緒に踊ろうよ」 「また、急だな」  日比野の呆れた声にもどこか楽しそうな響きがこもっていた。 「ステージに立ってみたらわかるよ。僕等はアイドルじゃないけど、表現は出来る。見るのも楽しいけど、踊るのもやっぱすげぇ楽しいんだ。うちの高校の卒業生が、うちのダンスのサークルに居てね、僕は中学生の頃にステージを見に来てた。それからずっと、文化祭で僕もステージ立ちたい、でもやめようかどうしよか、そう迷ってたんだ。一人で踊るんでもいいんだけど……。やっぱり誰かと踊ってみたい。誰かとこの湧き上がる感じ、共有したいんだ。それで今日、日比野と話して、目の前で踊ってみて決心がついたんだ」 「俺と?」 「やりたいことや表現したいこと、好きなことを好きっていうこと、そういうの我慢しない方がこんなに楽しいんだって。どっかで誰も僕を理解してくれる人はいないって諦めてた。ダンスだって、僕が躍らなく立って世の中には上手い人が沢山いるし。だけどそうじゃなかった。こんな身近に理解して応援してくれる人がいたんなら、世界に向けて発信したらきっともっと沢山いるよ。僕らみたいな人」 「そうだな」    日比野は真秀を抱きかかえていた腕を離すと、カウンターの上に置いていたスマホの画面をタップする。  もう一度ハートアタックが鳴り響いた。真秀は全身を揺り動かしながら、嬉しそうに日比野に目を合わせた。お互い向かいあってリズムにのる。  サビに差し掛かる手前で、日比野が長い手を上に振り上げて合図をした。 「え!」

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