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穂影くんのよくある一日 4
「え…?」
予想外の一言に思考が止まる。
喫煙がばれた…?
あんなに気を使ってたのに…?
しかも、賢太郎先生に…?
「なんのことですか…?」
先生は僕の言葉を聞くと、ゆっくりとタバコを吸い、肺に煙を入れ、ゆっくりと息を吐き天を仰いだ。
喫煙なんかで停学になってはたまったもんじゃない。
とりあえずお茶を濁して、先生の反応を見ることにした。
「別に隠さなくてもいいぞー。誰かにチクるわけでもないし、説教するつもりもない。」
この場合チクるわけじゃないという表現は、おかしいと思う。
なにせ、賢太郎先生がチクりを聞く側なんだから。
まぁ、要は別の先生に報告とかをするわけじゃないということなんだろうけど。
自分を生徒側と一緒にしてるあたり、先生らしい。
まぁ、その辺は賢太郎先生がよく別の先生に怒られてるからだと思うけど…
「まぁ…なんというか、心配?で。」
心配…?
なんで…?
「稲角は普通、煙草吸うような奴じゃないと思うから。なんかあったんじゃねぇかって」
僕の答えを待たずに言葉を続ける賢太郎先生。
あぁ、なるほど…
確かに僕の普段のキャラで煙草吸ってたらびっくりするかも。
「まぁ、一応聞いたんだけどさ。ほぼ確信してる。お前が吸ってること。俺、鼻がいいからさ。わかるんだよ。すってるか吸ってないか。それに、俺と同じ銘柄だからすぐわかった。がんばってガムとかで匂い消そうとしてるみたいだったけど。」
こういう場合、僕はどういう反応をすればいいんだろう。
結構図星を突かれてるから、シラを切るのは無理そうだ。
開き直って素で話すか…?
いや、なんか、負けた見たいで悔しい。
じゃぁ…
「ごめんなさいセンセイ…その…出来心っていうか…つい…」
少し潤んだ瞳で先生を見つめる。
本当に申し訳なさそうに。肩をすぼめるのがポイント。
「出来ごごろねぇ…」
賢太郎先生には効果ないか…
でも、あくまでいつも通りの対応するだけだからいいんだけど。
「まぁ、悪い奴らに無理やり吸わされてるとかじゃなくてよかった。」
そういうと賢太郎先生は吸っていた煙草の火を消した。
「……このことは秘密にしといてやる。俺とおまえ、男同士の秘密だ。」
「ひ、秘密ですか…?」
カンケーないけど秘密ってなんかエッチな響きだよね。
てか、ホントに黙っててくれるんだ。
まぁたぶん、面倒事に巻き込まれるのが嫌だからなんだと思う。
「俺も喫煙者だからな、人にどうこう言えないし。」
いや、喫煙者どうこう以前に、あんた教師だろ!
普通未成年が煙草吸ってたら見逃さないからな!
でも、まぁ、ありがたいから良しとしよう。
「あ、ありがとうございます…」
「なんか、困ったことがあったら俺に言えよ。」
先生はそういいながら、席を立ちドアを空け、出ていこうとする。
あまりにあっさり終わって拍子抜けして、きょとんとした顔をしてしまう。
「そう心配そうな顔すんな、この件で脅したりとかしないから。んじゃ、帰っていいぞー。」
賢太郎先生はいじわるっぽく笑い部屋を後にする。
ぱたむと扉が閉まる。
いつもだったら、先生にお礼でエッチなことをしてたかもしれないけど、今は恋人がいる。
賢太郎先生っていい人だな。
教師としては最低だけど。
春の空に、湿った風が吹いていた。
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