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穂影くんのよくある一日 5
賢太郎先生からの呼び出しによって、僕の心はざわついていた。
喫煙がばれたこともそうだったが、それを確認されただけで終わったということもびっくりした。
あるべき盛り上がりがなかったいうか、なんというか。
だってそうじゃない…?
たとえば怒鳴られるとかさぁ。
なんか、腑に落ちない
「穂影くん大丈夫…?」
僕の納得いかないオーラを感じたのか、隣の席の結衣ちゃんが声をかけてきた。
「うん…大丈夫だよ。ありがと…えへへ」
チャーミングな笑顔を結衣ちゃんへと向ける。
結衣ちゃんはクリクリとした大きな目をしていて、薄唇の透き通る肌をした、女の子だ。
よく、教科書を忘れたときとかに、見せてくれたりする優しい子だ。
今日は、背中まで伸びた髪を後ろで結んでいて、清楚な感じでかわいく決めている。
ちなみに、結衣ちゃんは割と僕のタイプだったりする。
面食い気味な僕だから、顔がいいのは当然として、清楚系っていうのがまたいい。
だって、逆隣りの千春みたいなガサツ女より絶対、清楚のほうがいいに決まってるじゃん。
「あのさ、穂影くん…」
「…なぁに、結衣ちゃん?」
結衣ちゃんは少し照れくさそうに俯いた。
小さく息を吸い、また僕に目を向ける。
顔を上げた結衣ちゃんの頬は微かに光に照らされて、薄紅色になっていた。
何かを言いたそうに口をもそもそとしている姿は、兎みたいでかわいかった。
「…放課後暇?」
暇か暇でないかと言われれば、暇じゃない。
午前中の休み時間は寝てたし、昼休みをつぶされたから、今日は全然東や奏と会えていない。
すぐにでも、奏の胸に飛び込みたいし、東の事を抱きしめたい。
それでも、こうもかわいく誘われてしまったのではなかなか断りづらい。
「ちょっとだけなら…」
残念そうな声色で、少し寂しい表情を浮かべると、僕の表情とは反対に結衣ちゃんの顔には向日葵のような笑顔が咲いた。
「放課後、教室に残ってて!少しだけ話があるの!」
結衣ちゃんの声が少し大きくなる。
でも多分これって…
告白…だよね…
うわぁ…どうしよう…
この間までだった、OKしたかもしれないけど、今は東と奏がいる。
ということは必然的に断らなければならい。
勇気を振り絞ってくれた結衣ちゃんを傷つけてしまうのは、本当に申し訳なく思う。
「じゃぁ、また、放課後ね!」
そういうと結衣ちゃんは一度、席を立ち教室を後にした。
結んだ髪とリボンが揺れる後ろ姿は心なしかとても嬉しそうに見えた。
いまの僕の気持ちはまさに後ろ髪を引かれる思いだなと思った。
「おい、どーすんだよ、穂影ー。」
どうやら、隣で盗み聞きしていたらしく、千春がニヤついた顔で話しかけてくる。
「盗み聞きとかシュミ悪い」
眉をひそめて不機嫌そうに答えると、千春の口角がさらに上がる。
「盗み聞きじゃないよ、勝手に聞こえてきたんだ。」
そういって、千春は外人のように肩を竦めた。
「それより、穂影。話ってきっと告白だぜ。どーすんだよ?桜沢みたいな美少女滅多にいないぜー。」
桜沢っていうのは結衣ちゃんの苗字。
まぁ、確かにあんな美少女滅多にいないんだよなぁ…
「…もったいないけど、OKはできないよ。言ったろ?恋人出来たって。」
「マジかよ?!お前なら二股かけると思ってた…」
ホント、千春は僕の事なんだと思ってるの?!
……昔二股してたこともあるけどさ。
てか、それを言ったら現状だって二股に近いようなものがあるんだけどさ…
「もったいねぇー。あたし、桜沢と、ヤれるんなら、二股でも三股でもするわ。」
……ほんと、下品。
ちなみに、千春は僕と同じバイだったりする。
まぁ、だから、色々腹を割って話せるっていうのもある。
「そんなに、その恋人の事好きなの?」
珍しく、千春が真剣な顔で聞いてきた。
「うん…本当に大切…」
東も、奏も、どっちも大切。
選び切れないからどっちも選んだ。
三人じゃなきゃダメだから、三人一緒になった。
僕らの選択、間違ってないよね…?
「そうか…」
そういって、千春は、まるで女の子のような笑顔になった。
…あ、千春って女だった。
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