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空に雨降り、小道を行けば
「♪あーめ」
外を見渡すと雨が降っていた。まだ梅雨には早いが、ざぁざぁと雨粒が落ちる。
昨日の電気プレイのせいで、身体はクタクタだ。
あの後、ふたりで僕の出したいろんな液体をカタした後、もう一度シたのもつらかった。
辛かったけど、やっぱり、奏のやつ入れてもらってなかったから…
「♪が降れば」
しとしとと落ちる雨粒が、窓のそばに生えた大きな楠の葉を打つ様子を見つめていると、何故だか心が落ち着く気がする。
賢太郎先生のしゃべる声を跳ね除け、雨の音が耳に響く。
でも、あの電気プレイには結構怒ってたりする。
エッチした後は、ずっと奏の事を無視していた。
今後、痛いのしないなら口を利くこともやぶさかじゃない。
「♪小川」
滝のように落ちる、雨の先の景色は少しかすんで見える。
かすんで見える外の景色は、いつも見ているものよりも少し幻想的で、いつまで見ていても飽きない。
「♪ができ」
落ちてゆく雨が水たまりをつくり、その水面を揺らす。
幾何学的に広がる水面はとても綺麗だ。
「♪水が」
聞こえないはずの水音が脳内に響いてゆく。
「♪流れて」
雨の日は割と好きだ。
外を出歩くのは億劫だが、こうやって外を見ていると幻想的な風景なのでとても好きだ。
「♪みんな」
やがて雨がもっと強くなり、だんだんと外が強くなる。
「♪死ーぬ」
昔なんかのコントで見た歌を口づさむ。
特に意味がないのだが、何故だか雨の日にはこの歌が思い浮かぶ。
特に意識しているわけではないのだが、不意に歌ってしまう。
皆もそういうことあるよね…?
「いーなずみ。物騒な歌を歌うな。」
賢太郎先生に教科書の背でコツンと叩かれる。
「あぅ…ごめんなさーい。」
「はぁ。まったく。はい今日は解散!今日は設楽先生が休みだから、ホームルームないからかえっていいぞー」
授業終了のチャイムが鳴る、4分前。
蜘蛛の子を散らしたように、クラスメイト達が散ってゆく。
「稲角。お前次のテストで赤点取ったらホントに許さないからな。」
賢太郎先生が僕の耳元に顔を寄せて注意する。
しゃべるたびに、KOOLの匂いが微かに香る。
賢太郎先生の声は低いので、少し腰に響く。
「わかってますよー。」
実の入っていない返事を返すと、先生はいかにも不満、といったような表情をして、僕の頭に、ぽんと頭に手を乗せる。
賢太郎先生のごつごつとした男らしい指が頭に当たる。
賢太郎先生、手おおきいな…
「いざ赤点取って泣きついてきても知らないからな」
強く頭を押さえつけ、ぽんと頭を離し、すたすたと去って行ってしまう。
いーもーん。
奏に教えてもらうもーん。
そんなことを思いながら、今日も、落研に行く準備をする。
雨の降る渡り廊下をゆっくりと進む。
いつものレンガの建物、いつもの無機質な扉。
でも、今の僕にとってはこの何でもないものが、こんなにも愛おしい。
「穂影いらっしゃーい。」
この部屋の主、東が僕をいつものように迎えてくれる。
いつものありふれた日常も、愛しい人の言葉なら、退屈せずに何度だって繰り返せる。
ただ、今日は少しいつもと違うことがある。
「あれ…?奏は?」
金髪の活字中毒こと、奏の姿が今日の部室には見当たらなかった。
東が用事でいないことはたまにあるが、奏がいないことは珍しい。
「家の用事で今日は早く帰るんだって。LINEにそう書いてあったよ。」
ポケットからスマホを取り出してみると、しっかりとLINEに絵文字も何も入っていない飾り気のない、奏らしい文章で連絡が入っていた。
「じゃぁ、今日は、東と二人きりかぁ。」
「そ、そうだね!」
何気ない僕のつぶやきに、東が動揺した声で返事を返してくる。
あっ…そうか、東と二人きりになるのは付き合ってから初めてだっけ。
僕は、部屋の右手に置いてある3人掛けのソファに鞄をに放り、そのソファの前に置いてある、低いテーブルに沿ってL字を書くように並べられた一人がけのソファに座る。
ここが僕の特等席。
ちなみに、東は僕が鞄を放ったソファにいつも座っている。
奏もそのソファかな。
東が持ってきたであろう少年誌をぱらぱらと読み始めると、東は座っている大きなのソファの上で小さくもじもじしし始めた。
あれれー東ちゃん、キンチョーしてるぅ
うへへ。
ホントに東はかわいいなぁ。
奏と違って。
「ねぇ、東…」
「な、なぁに?」
ちょっと色っぽい声で、呼びかけると、身体を小動物のようにピクンと跳ねさせ、目をそらす。
ほんと、かわいい。
僕は腰をあげ、東の座ってるソファまでいき、隣に座る。
「え…?ほ、ほかげ」
「ねぇ、ちゅーしていい?」
そうして僕は、ちょっと強引に東を押し倒した。
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