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遠い空が呼んでいる 5
一連の行為を終えた後、僕らは再び身支度を整え、再び金沢の街へと繰り出した。
ホテルから金沢駅の反対側への向かうと、鼓門と言われる大きなオブジェが顔を見せる。
新幹線の開通により、今や金沢の顔となったこの門も改めて近くで見るとかなりの迫力がある。
「わぁ、すごーい。」
東が目を輝かせながら顔を見上げる。
「俺、写真撮ってくる!」
東はポケットからスマホを取り出し、鼓門を全て写真に収めようと、駆け出してゆく。
日が沈みかけた金沢の街にライトアップされた鼓門が、殊の外ロマンティックに見えてしまう。
「案外、こーゆーのも悪くないな。」
奏がポツリと呟いた。
「え……?」
「なんか、普通の恋人っぽくて」
普段のニヤけた顔じゃなくて、奏の顔は真剣だった。
「なにそれ……」
「だって……デートとかしたことなかったろ。」
「なに?したかったの?」
いつも素っ気ない態度を取っている奏からは想像できない言葉に少しびっくりしてしまう。
「いや、したかったって言うか。たまにはってさ……」
奏は鼓門から目を離さない。
でも、その眼差しは真剣だった。
「そう……だな。」
あまり、慣れないシチュエーションに何故だか照れてしまい、僕は思わず顔を下に背けた。
「俺さ、お前のこと好きだよ。」
「なんだよ、いきなり……知ってるっつうの。」
「いや……そうじゃなくて……」
奏が珍しく言葉に詰まった。
普段あんなに淀みない言葉を吐く男が、次の言葉に悩んでいる。
「僕も、奏のこと好き。」
そう言って、僕は奏の頬にキスを落とす。
普段あまりしないことにビックリしたらしく、奏が白黒した目でこっちを見返してくる。
「たまにはいいでしょ……こーゆのも。」
そう言って笑ってみせると、奏は顔を真っ赤にして固まってしまった。
案外、初心なところもあるんだ……
「ねぇ!夜はなに食べようか!」
はしゃいで、鼓門を写真に撮りまくってた東が戻ってきた。
「そーだなぁ。せっかく金沢に来たんだし地酒とか飲みたいなぁ。」
「えー。またお酒飲むのー。」
「今日はちゃんと味わって飲むからいーんだよ。なぁ、奏?」
「あぁ。確かに。金沢まで来て地酒飲まないのもなぁ。」
金沢は国内有数の酒どころである。多くの有名な地酒があり、それを飲み比べるのもまた、旅の一興である。
飲み口の柔らかい甘口の酒から切り口の鋭い辛口の酒まで揃うこの金沢の地酒も案外、目的地選びの決定打の一つだったりするのだ。
「とりあえず、近江町市場に行こう。そこで、寿司でも食べながら、飲むのがいんじゃないか。」
近江町市場とは金沢駅から歩いて15分ほどのところにある、大きな市場で北陸海でで取れた新鮮な魚介類や、肉、野菜などを取り扱っている。
最近では雑誌やテレビでも紹介され、新鮮な牡蠣がそのまま食べられたりと人気スポットになっている。
「それいーねー!お寿司ー!」
「俺ぶり食べたーい!」
「俺マグロー!」
「えー、穂影お子ちゃまー!」
「何処がお子ちゃまなんだよー!」
「はいはい、はしゃぐなお前ら。」
東と二人で白熱していると、奏が止めに入る。
「てかさー、近江町市場ってどうやっていくのー?」
「この道真っ直ぐだよ。」
そう言って、奏が先頭を切って歩き出した。
まぁ、奏に任せとけばたどり着けるだろう。
スタスタと歩き始めてしまった奏に、遠足の小学生のように僕と東が付いて行く。
「ねぇ穂影……」
後ろから付いてきていた東が、僕の裾を引っ張った。
「どーした?東。」
「その……さっきはごめん………」
下をうつむきながら、東が呟いた。
月明かりが、東の真っ赤に染まった顔を照らし出す。
「いいよ。別に謝らなくても、悪いのは奏なんだし。」
そう言って、僕は前を歩く奏の足を軽く蹴飛ばした。
「痛って、なにすんだよ。あぶねーなぁ。」
足を蹴られてつまづきそうになり、奏がこちらを振り返る。
「しかえし。」
「はぁ?わけわかんねぇ。」
少し、イラついた顔をして奏はまた歩き始める。
正直こんな程度じゃ、全然仕返しした気分にならないけど、今日は満足しておこう。
「やっぱり、穂影と奏って、すんごいなかいーよね。」
「そーか?一応、恋人同士だけど、別にイチャイチャしてるわけでもないし……」
「そうじゃなくて。」
東が僕の言葉を遮った。
俯いていた顔を上げて、東は真っ直ぐと僕を見つめてくる。
その目は少し寂し目をしている気がした。
「穂影と奏は僕と出会う前から、仲良しだったわけじゃん?だから、二人はなんか特別って、言うか……二人だけの世界があるっていうか……その……」
東が言葉に詰まったところで、僕はぎゅっと東の手を握りしめた。
今繋ぎとめないと、そのまま何処かに零れ落ちてしまいそうだったから。
「心配しなくても、大丈夫。僕はちゃんと東の事が好きで愛してる。こんなに可愛いやつが他にいるもんか。……多分。この気持ちはきっと、奏も同じだと思う……。」
「……うん!そうだよね。えへへ。なんか、急に不安になっちゃって。」
「安心しろ……」
そう言って、僕は奏にしあのと同じように、東にキスを落とした。
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