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遠い空が呼んでいる 6

「あぁ……飲んだ。」 「さすがに飲み過ぎだよ、奏。」 珍しく奏が、青い顔をしてうずくまっていた。 いろいろな種類の地酒をちびりちびりと試していた僕らだったが、あまりの美味しさにペースを考えずに多量の酒をあおっていた奏が潰れてしまったのだ。 「はぁ……気持ち悪い。」 「バカだなぁ、本当飲み過ぎるなんて。」 「えへへー、そーだよー!飲み過ぎはダメなんだ!」 東が真っ赤な顔をして大声を上げる。 元々酒に弱い東である。 日本酒を何種類も飲めばこうなることは火を見るよりも明らかだったが、旅先の浮かれ気分で制止することを忘れて酒に浸ってしまったのは反省しなければならない。 「お前ら、大丈夫?」 「えへへ?。大丈夫?。」 東がフラフラとよろけながら僕に抱きついてくる。 ほんのりとした日本酒の香りと東の体の香りが鼻腔を擽る。 その匂いになぜだか少し安らぎを感じて、東をギュッと抱きしめる。 「ほら、ホテル帰るよ。」 東の体を子供のようにさすると、満足そうな顔をして、体を擦り付けてくる。 「穂影の体つめたーい。」 「東の体があついだけだよ。」 「えへへー。そっかぁ。」 頭をポンポンと撫でてやると東は嬉しそうに目を閉じた。 しばらくすると規則正しい息遣いが聞こえてくる。 どうやら眠ってしまったようだ。 「しょうがないなぁ。」 一つ息を吐き、東の体を持ち上げる。 軽い東の体は僕の腕力でもすぐに持ち上がる。 「おい、奏。立てるか?」 「なんとか……。」 奏がふらつきながらゆっくりと立ち上がる。 よろよろと二人並んで、ホテルを目指し歩き始めると、ふと夜空が目に付いた。 「綺麗だね。空。」 心なしか、東京で見るより星の数が多く感じられる。 幾多の煌めく星々に照らされて、心が少しロマンチックな愛を求めている気がした。 「……悪い。頭回って星どころじゃねーわ。」 ……僕はなんでこんな奴のことを好きになったのだろう。 ……顔だな。うん。顔。 「サイテー。」 僕がポツリと呟くと、奏は少し悲しそうな顔をした。 「……悪い。」 酒のせいなのか、奏はいつもより素直な言葉を吐き出した。 いつも強気な奏の、少し弱い姿が、何故だか少し、かわいく思えてしまう。 ゆっくり、何も喋らずホテルへと向かう。 この無言の時間が、ひどく幸せに感じた。 ようやくホテルに着き、東をベットへ寝かしつける。 幸せそうな顔で眠る姿に、心が少しあらわれる。 「はぁ……ようやくついた。」 奏が椅子に座り大きな息を吐く。 酔っ払った状態でここまでくることは相当体力を使ったらしい。 「大丈夫?本当に?コンビニかなんかで薬買ってこようか。」 「大丈夫。心配いらない。」 「そっか。」 「穂影。こっちきて。」 奏が座ったまま手を差し伸べてくる。 仕方ないな、と思いながら奏のところまで近寄ると、今度は膝をポンポンと叩いた。 え……?それは座れってこと? 「来て。」 ……どうやらそうみたいです。 奏の肩に手を掛け、向かい合うように膝の上に乗る。 「穂影……かわいい。」 そう言って、奏は僕の頬に手を当てる。 頬を優しく撫でらる。 指先の感覚が妙にくすぐったくて、体がムズムズしてしまう。 しばらくされるがままになっていると、今度は奏の顔が近づいてきた。 それに応えて、僕も唇を合わす。 自然に舌が口に入ってきて、もとめるように深く絡めあってゆく。 「んっ……はぁ……そうっ……」 「んっ……穂影……好き。愛してる。」 「だから、知ってるって。」 「……そうじゃなくて。……お前が好き。……お前だけが好き。」 「……え?」 奏の言葉に一瞬固まる。 ……それってもしかして。 「東の事は嫌いじゃない。確かに大切な友達だ。……でも、友達なんだ……。」 ……嘘だ。 だって、俺たちは、誰か一人は選べないから、みんなで恋人になったんだ。 それに……これを提案したのも奏だったはずだ。なのになんで……。 奏の発した衝撃的な一言に僕は混乱して頭が回らない。 「……ダメだとわかってたんだ。こんな事をするのは。でも、どっちかを選んで、お前が傷つくのも見たくなかったし、東が傷つくのも見たくなかった。……俺が我慢すれば丸く収まる。……そう思ってた。でも、やっぱりダメだ。俺は……お前を俺だけの物にしたいって……。そんで、今日。東にお前を抱かせてみてわかった。俺、こんな状況は我慢できねぇって。」 奏の頬から涙が流れた。 奏とは長い付き合いだけれども、こいつが泣いているのを見るのは初めての事だった。 「だからさ……旅行が終わったら俺、お前らと別れようと思う。お前と東だけなら、普通の両想いだ。俺もそれなら割り切れる……。」 「何言ってんだよ奏……俺、お前と別れたくない……。ずっと一緒にいたい……。」 奏の体を繋ぎ止めるように抱きしめる。 いつも悪口ばかり言ってるけど、なんだかんだで、優しくて、俺たちの事を思ってくれる。こんな時だって、自分の事より俺たちの事を考えている。 そんな不器用な奏が、大好きだら。 別れるなんて考えられなかった。 「じゃぁ、穂影は俺だけの事を愛してくれるのか……?」 先ほど綺麗に輝いて見えた星は、今は悲しく光って見えた。

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