34 / 36

遠い空が呼んでいる 8

「穂影。金箔アイスたべるか?」 奏が背中でおぶられている僕に聞いた。 「食べる……。」 「顔。もう大丈夫か?」 「うん。」 僕の返事に奏はゆっくりとしゃがみこみ、僕の事を下ろした。 「ありがとな……。」 「別に……。」 奏の大きな手が僕の頭を撫でる。 その感覚に、また少し涙が出そうになった。 「あ、穂影!体、大丈夫?」 「うん!もう大丈夫。いやー、飲み過ぎはよくないなぁ!」 心配してくれる東に向かって強引に作った笑顔を向ける。 「アイス。一緒に食べよ。」 「うん!」 今は、今日だけは、東と、奏と、三人で。 楽しい旅をしよう。 僕は東の寂しそうな顔を見てそう心に決めた。 「すごーい!金箔が一枚丸こどとついてるー!」 流石金沢というような絢爛なアイスを東と二人で突く。 アイス自体は風のバニラソフトだが、盛り付けられたアイスに金箔一枚が丸ごと吹き付けてあるのだ。 少し値が張るが観光の思い出としてはインパクト大だ。 実際、先ほどから様子を見る限り、殆どのお客さんがこれを頼んでいる。 「えへへ。おいしーね。」 東の輝かしい笑顔に僕も自然と微笑みが漏れた。 それから東茶屋街を後にすると、兼六園や、美術館を訪れ、あっと言う間に時間が過ぎた。 色々な悩み事を少し忘れて遊んだ今日1日は本当に楽しかった。 でも、この時間も長くは続かない。 1日の日程はほぼ終わり、すでに僕らは新幹線のホームにいた。 「楽しかったね。穂影。」 そう言って、東が僕の手を握った。 握られた、小さな手を握り返す。 「そうだな。」 「穂影、昼間は嘘ついてなかった。ホントに楽しそうだった。」 「え……?」 「今朝の穂影、辛そうだった。」 やっぱり、隠していてもわかってしまうものなのかな…… 「東……ごめん。」 「なんで謝るの?」 東の声色は優しかった。 驚きも怒りもなく、ただ優しいだけだった。 「ごめん……」 僕はその言葉しか、ひねり出すことができなかった。 押し潰されそうな思いは、ただの一言に詰め込むことしかできなかった。 僕らの無言を切り裂く様に、新幹線のアナウンスが流れる。 「ほら、帰るぞ。」 奏が僕の手を引いた。 車内に入ると、東は疲れていたのかすぐに寝てしまった。 「穂影。」 奏が僕の名前を呼ぶ。 ただ一言、名前を呼ばれるだけでピクリと体が跳ねる。 まるで初恋の中学生の様だ。 「休みが明けたら、俺から東に説明しとく。それで俺らの関係はお終い。」 奏は頬杖をついて、窓の外を見たまま言った。 「本当に……本当に別れるの。」 「あぁ。」 「なんで……。」 「昨日話たろ。」 「でも……。」 でも、それでも僕は、奏と一緒に居たかった。 でも、それは僕のワガママなんだ。 最初からおかしかったんだ。 三人で付き合うなんて。 ただそれが、普通に戻るだけ。 頭ではいろんなことの理解はできている。 それでも僕の感情は奏を求めていた。 「俺だって、お前と別れたくなんかないよ。お前を俺だけの物にしたい。でも、俺は敗者なんだ。お前は選べないと思ってるだけで、俺と東だったら、お前は東を選ぶ。……そういうことだよ。」 窓の外を見ていた目は、僕の瞳を捉えていた。 真っ直ぐと奏の瞳が僕を撃ち抜く。 「好き……愛してる。」 「ずるいよ……本当。」 「うん。わかってる。」 「僕も好き。」 「お前もずるいな。」 「知ってる。……俺ってズルい人間なんだよ。」 今まで、自分の容姿を利用して、いろんな人と付き合ってきた。 全く好きじゃない人もいたし、お金のためだけに付き合ってる人も居た。 そう。 僕はズルい人間だ。 そんな僕だけど、奏と東は本気の本気で好きになった。 それでも僕はズルい。 どっちか1人を選ぶことができなかった。 どうして、いつもこうなんだろうなぁ。 「お前、ホント、生き方不器用だよな。」 「は?奏に言われたくないんだけど。」 奏のふっかける様なセリフに僕はちょっとムッとする。 「お前ほどじゃ、ねぇよ。お前みたいに、楽しいことばっかり拾おうとして、いつも辛いことしか手元に残らなくなることなんてない。」 え?なにそれ……そんな生き方じゃないよ。 「僕だって奏みたいに、誰かが辛いのは見たくないからって、関わらない様にして自分が傷つくことなんてないよ!」 「はぁ?そんなんじゃねーよ。」 少し、時が止まる。 二人で、つりあがった目を見つめあう。 「ふふっ……あはははは!」 バカみたいに言い合って、くだらない事で怒って、なんだかそれが妙におかしくて、二人で笑いあった。 『間も無く、東京ー。東京。』 新幹線がもうすぐ東京に着く。 これで楽しい旅も終わり。 奏との関係も終わる。 「起きて、東。東京着いたよ。」 「んっ……もぉ、着いたの?」 「そうだよ。」 東が、目を擦りながら帰る準備を始める。 素早く、準備を終え、新幹線をおりる。 五月の夜に、まだ冬の寒気を残した風が吹き、肌に突き刺さった。 改札を出ると、皆、別々の帰路となるため、これで本当に最後だ。 本当に……最後。 「じゃ、これで。」 そそくさと、奏が帰ろうとすると、東がそれを呼び止めた。 「奏。また、休み明けにね。」 ただ、空しい風だけが吹いた。

ともだちにシェアしよう!