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第2話

駅前で3人と別れた新垣は、途中コンビニに寄り一人暮らししている小谷のアパートに向かった。時刻は午後10時を過ぎていた。 所々ペンキの剥げた木製のドアを叩くと、部屋の中から物音がして鍵が開いた。恐る恐るドアノブを回す小谷は、ドアを叩いた相手が新垣だと分かると勢い良くドアを開けた。 「新垣!どうしたの、こんな時間に」 小谷の表情は驚きというよりも喜びに満ちていて、新垣に抱きつかんばかりだった。その姿は教室の片隅で険しい顔で本を読んでいる様子からはとても想像も付かない。小谷は、可愛いのだ。 「アイス買ってきた。一緒に食お」 「うん」 新垣は我が物顔で部屋に上がりこむと、どっかりと扇風機の前に腰を下ろす。ドアの鍵を閉めた小谷はその隣に並んで腰を下ろした。新垣が袋の中から自分のアイスを出すと、袋ごと小谷に渡した。目の前の卓袱台には数学の問題集が広げてあり、すぐ隣には布団が敷いてあった。 「これから寝るところだった?」 「うん、でも大丈夫。新垣は?今日も泊まってくでしょ?お母さんに連絡はしたの?」 「さっきした」 棒アイスを舐めながら、小谷が新垣の肩に頭を預けた。小谷の身体からは、石鹸の匂いがしていた。 「カラオケは何歌ったの?楽しかった?」 「今の流行の歌とか、校歌とか、アソパソマソのマーチとか」 「何でそんなの歌ったの?」 アイスを齧りながら歌った曲を思い出せる限り上げていくと、小谷はその時にそこにいたかのようにクスクス笑う。誘いに応じない割には、小谷は新垣の話を聴きたがった。小谷はどんなに些細な話でも面白がって聞いてくれるから、新垣は小谷に話をするのが好きだった。 「牧之原が勝手に入れた。でもさ、変な曲入れると皆テンション上がって盛り上がるんだよ。今度小谷もおいでよ。絶対楽しいから!お前の好きな曲歌ってやるよ」 「……うん、また今度ね」 この消極的な返事を聞く限り、小谷が来る日は来ないのだと思う。無理強いをするのは良くないことだと分かっているが、それでも新垣は小谷に少しでもクラスに馴染んで欲しいと思っていた。 「今度花火大会あるじゃん?一緒に行かねぇ?」 「行く!行きたい!!」 よほど花火が好きだったのか、小谷が目を輝かせた。小谷は人混みが嫌いかもしれないと思っていたから意外だった。もしかしたら、今まで誘って断られてきたカラオケやゲームセンターは小谷にとって苦手な場所だったのかもしれない。

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