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エピソード14−②
「ひ・る・ご・ろ・ごう・りゅう・す・る・こ・と・に・し・た」
周りが煩さすぎるせいで声が通らず、七星の耳元に口を寄せてそう伝えた。
(あれ?)
言い終わってから七星を見ると何故か顔を赤くしていた。
(やべっ近すぎたか)
自分のしたことにやっと気づく。俺の心臓も跳ね上がった。
(まぁ……ナナの場合、俺なんかにこんなことされていやだったのかも知れないけど……)
そう思うと跳ね上がった心臓も落ち着いてしまう。
それから二人で見て回った。
昔水族館の来た時のように自然な形で隣に並んでいられている……それがすごく嬉しかった。
小さな小窓を二人で頭を突き合わせるようにして覗く。昔と違うのはそんな時にはどきどきと心臓が煩い。いろいろ顔に出ないように気を引き締める。
海月のブースに入ると、七星の顔が今まで以上に緩んだ。様々な種類の海月がふわふわ揺らいでいるのをうっとりとした目で見つめている。
(相変わらず海月が好きなんだ……俺の存在忘れてるみたいだな)
ふっと溜息が零れてしまう。自分に振り向かせたくて。
「……海月好きは相変わらずか」
「えっ」
吃驚したように俺を見る。
(やっぱ俺のこと忘れてたな)
「……覚えてた……?」
ちょっと恥ずかしげな顔。しかし、そこで思わぬ反撃が。
「僕も覚えてるよ。動物園に行っても水族館に行っても、いつも一番はしゃいでた」
それはここに来る道すがら自分でも思っていたことだが、七星と一緒なのが嬉しかったからだということは本人は知らないし、今更知られても恥ずかしいだけだ。
「忘れろ」
そんな気持ちを悟られないようにそう言ったが、なんとなく顔に出てしまっていたような気がする。
(ナナの顔が〜〜)
もう少し二人で眺めていたかったがタイムリミットがきてしまった。
そろそろ合流しようという明からの連絡。
(正直忘れてたわ〜二人で来ているような気になってた)
俺は心の中で盛大にがっくりきていた。
待ち合わせ場所の三階売店に向かう。明と日下部はまだ来ていなかった。
なんとなく売店を眺めていて海月のストラップが目についた。
(これあげたら喜ぶかな……いやいや、海月のストラップ彼奴らがつけてたろ)
俺はその隣にぶらぶらしているイルカのストラップを手に取った。
会計を済ませたそれを七星の目の前にぶら下げる。
「え? なに?」
と七星に言われて俺も。
(なんでだ!)
心の中で自問自答していた。自然と選んで手にとって会計まで済ませている! 七星に渡す理由まで考えてなかった!
俺は、誕生日プレゼントだのクリスマスプレゼントでもいいなど、頭をフル回転させた割にはお粗末な言い訳しか言えなかった。
「俺の誕生日プレゼントのお礼でもいい――」
最後に言った言葉がかなり地雷だった。口の中に苦いものを感じる。
あの時は一晩過ごした女もいて、七星には知られたくなかったんだ。誤魔化すようにキツイ態度も取った
「あの時は悪かったな」
「僕こそ突然押しかけてごめん。彼女いたみたいなのに」
七星まで地雷を踏みつける。
「彼女なんかじゃ……」
その女は『彼女』ではなかった。『彼女』であったほうがよほど良かったのかも知れない。
「いや、ナナはわからなくていい」
乱れた自分を知られたくなくてざくっと話を打ち切り、なかなか受け取らない七星の手にイルカのストラップを握り込ませた。
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