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第20話 破れ鍋サブだから
救出劇のあと、量販店でスウェットとスニーカーを調達した上で警察の事情聴取に協力し、帰宅は深夜になった。
真王は供述を通して自分の活躍ぶりを認識したらしい。スーツの胸を反らしながらエレベーターに乗る。
「二十時前に仕事片づけて迎えに行ったんだよ。けど夕夜さん店から出てこないし、電話しても出ないし、乗り込んだらバー自体ないし」
千歳との偽の待ち合わせ場所は、伝達時夕夜に跨られていた真王にも聞こえていた。倉庫に近い品川だったおかげで、間に合ったと。
「サブの売春斡旋の件が頭に浮かんで、愛車ちゃんで爆走しながらあっちこっち手配したってわけ」
それによって警察は千歳の取引相手のほうも取り押さえられたという。
「褒めて」とでかでか書かれた真王の顏を撫でてやる。
「で、そりゃ何だ」
撫でくりまわして最上階に着くと、夕夜は真王が抱える銀色の螺旋状の置物を指差した。実はずっと気になっていた。
「ん? チョコレートファウンテン用のタワーマシン。夕夜さんチョコ好きっしょ? 帰ったらバレンタインしようと思って昼休みに買ったんだけど、ぶっけて壊れてないよな」
真王が五段タワーをぐるりと回して調べる。
これで貸倉庫のシャッターの取っ手を壊し、鍵を開けていたような。扱いの荒さに苦笑した。
一〇〇四号室の扉を開く。真王もついてくると思いきや、敷居の前で逡巡する。
「ケア、要る?」
サブならここぞと甘えるだろう。
しかし、プレイの相性問題は解決していない。
「……おれはドムを満たせねえサブだが」
それでも夕夜は消沈せず、切り出した。
「ちょ、あの粗チンの負け惜しみなんて気にすんなよ」
「ああ。ただケアより試してえことがある」
真王を宥め、堂々と微笑む。
千歳は夕夜以上に口が回り、痛いところを突かれたものの、裏返せば貴重なヒントを得られた。
「はじめてを全部あの男にくれてやっちゃいねえ。スイッチは、まだしたことがない」
スイッチ。ダイナミクスを切り替えるコマンド。ふつうのサブやドムには効かない。
夕夜はサブでも破れ鍋である。
ニュートラルにはなれない。でも、スイッチになら――真王のドムになら、なれる気がした。
真王も「その手があったな」という顔になる。ふたりが出会った玄関で、頷き合う。
「『変身してみせて 』」
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