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第22話 チョコより甘い
夕夜はにやりと笑うのみで、アイランドキッチンの作業台に頬杖を突く。
真王がホワイトチョコを溶かす工程を見守りに入った。
真王は一度作業を始めると、凝る。
細かく温度管理して、生クリームを少量ずつ混ぜて、じっくり溶かしていく。
そのうちに、夕夜のスウェットに甘い匂いが沁み込む。
「よし、いい感じ。チョコにつけたいもん出しといて」
真王が「カンペキ」と書かれた顔で、ファウンテンタワーをセットする。
ついにタワーに温かいチョコが循環した。なめらかでいてこっくり濃いのが、見ただけでわかる。
ふたりらしいプレイの準備は整った。
夕夜は真王の手を引く。明るいリビングを突っ切り、掃き出し窓の前で「『裸になれ 』」と指示した。
真王は恥じらう様子もない。「やっとか」とばかりにエプロンを外し、スーツを脱いでいく。
東京タワーを背景に、見事な逆三角形の身体が披露される。
夕夜はご褒美として形のいい臍にキスしてやりながら、真王のネクタイを拾った。
手触りのいい焦茶色のそれを、真王の両手首に巻く。カーテンレールに結びつける。抵抗を許さない早業だ。
「ちょ、これじゃあんたに触れないんですけど」
「チョコにつけたいもん出せ、つったろ」
抗議は取り合わず、夕夜もオーバーサイズのスウェットを下のみ脱いだ。真王と対照的に、ゆっくりと。覿面に真王が舌舐めずりする。
「服脱ぐだけなのに、間がいちいちえろいな。夕夜さんて昔からえろかったの?」
「十代の頃は勉強一筋だ。てめえみたいな遊び人は、同じ学校にいても絶対話し掛けねえ」
「まじか。んじゃ今会えてよかったわ。てか夕夜さんと出会えたら遊び人卒業だけどな」
今会えてよかった――夕夜にとっては重みのある一言を、軽く言ってのける。
ここに至るまで遠回りで手探りだったままならなさが、溶けていく。
夕夜は「『待て 』」と告げ、キッチンに向かった。真王の視線を背中に突き刺さらせながら、タワーのホワイトチョコを掬う。
とろりと温かいをそれを、内腿の隙間に塗りつけ、取って返す。
「『献上しな 』」
続けてコマンドを放った。最初からこのつもり――バレンタインもプレイもセックスもする――だったので、声が弾む。
一方の真王は、脚好きにはたまらない状況に理解が追いついていない顔だが、本能で反応して股間を前に突き出した。ちょうど夕夜の腹の奥にもぐり込むときの腰遣い。
「上出来だ」
夕夜は真王に背を向け、期待にふくらむ極上品を太腿で挟む。
温かいチョコを摺り込むみたいに、ねちっこく擦り始めた。
「はっ、ぁ、夕夜さん、履いてないのな」
真王が背後で浮かれ声を上げる。
彼が食材を取りに行った隙に、下着を脱いでおいた。だから夕夜が腰をくねらせると、真王の性器と夕夜の性器が直に擦れ合い、一緒に甘くなる。
「ふ、ぅ……」
夕夜はスウェットに手を入れ、自ら乳首を弄った。
真王が目ざとく気づいたのだろう、ネクタイを結んであるカーテンレールが軋む。
「おい、壊すなよ」
「んじゃ触らして」
「もう少し『待て』できたらな」
「あー、すぐ触りたいのに期待もやばい」
真王が悩ましげに嘆く。逆転プレイのコマンドは、もっぱら彼の愛を留め置く用途になりそうだ。
「それがサブだ。『見てな 』」
夕夜は素股を中断した。
キッチンの作業台に腰掛ける。真王の場所からでもよく見えるよう右の踵も作業台に載せ、外に開いた。
今度はチョコを指に纏わせ、後腔を探る。
「ちょ待って、そーいう用途ならオーガニックオイルとか高級片栗粉とか持ってくる、」
「『うるせえ 』」
大差ないことを喚く真王を黙らせ、メインの下拵えに取り掛かった。
窄まりに中指を押し込み、襞を伸ばす。
人差し指も収め、じっくり掻き混ぜる。
「ぅ、ん」
自分の指でも、いいところを掠めれば色めいた声が出た。
真王が唇を噛み締めつつ夕夜の身体が美味くなる様を凝視しているのも、ドムとして悦く感じるのかもしれない。
真王は夕夜の言いつけをちゃんと守っている。たっぷりご褒美をやらなければ。
ドムの醍醐味は、サブの望みを余さず掬い上げて満たすこと。
つまり、愛させること。
後腔から指を引き抜く。赤い粘膜にホワイトチョコが溢れ、誘うようにひくついて、我ながらなまめかしい。
「真王、よく待てたな。『好きにしろ 』」
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