10 / 14

第10話※

10  家に帰ると、蓮はそのまま部屋へと篭った。時々母親が部屋をノックする。それに疲れたからもう寝ると答えて再び部屋へと篭り、ベッドに寝転がった。  一人になって考えたかったのだ。  どうして相神があんなに拒んだのか。愛されたいと望むのに、どうして受け入れようとしないのか。  それが蓮には理解できなかった。あんなにも優しく抱いてくれたのに。つい、相神と身体を繋いだ日のことを思い出してしまう。  優しく身体を伝う指先。数日消えることのなかった赤い跡。その場所は今でもハッキリと覚えている。首筋、鎖骨、胸元、足の付け根。その全てを相神の唇と意地悪な舌が辿っていった。 「っん」  その感覚を思い出すと、自然と身体が反応し始める。身体の中心が熱く熱を持った。ゆるゆるとズボンを持ち上げ始めるそれに、蓮はゆっくりと手を這わせる。  どちらかといえば性的なことに対し、蓮は淡白な方だった。だが相神とセックスをして以来、思い出しては身体が疼き、その熱を収めるため必然と自らの手で慰めていた。  どういう風にするのが正しいのかなんて知らない。だが、相神とのことを思い出すと、自然と手が動いた。 「あ…」  ズボン越しに自身を撫で上げる。完全に硬さを持ったそれにはズボン越しの愛撫はゆるく、もどかしい刺激で、早く早くと熱が増す。 「はぁ、ぁ」  我慢出来ず、蓮は下着の中に手を差し入れた。直接自身を掴むと、そこは既に湿り気を帯びている。  完全に勃起した自身にとって下着の中は窮屈で、蓮は一気にズボンと下着を脱いだ。瞬間、性的な匂いが鼻をつく。その匂いに煽られ、興奮が増した。  右手全体で自身を掴み、上に下にと擦り始める。 「ぁ、ん、ん」  空いた左手をTシャツの中へと這わせ、肉付きの少ない胸元をやんわりと揉む。  撫でるように胸全体を揉んでいくと、胸の突起が主張し始めた。その尖った先を指先でキュッと摘む。 「ん…っあ」  出来るだけ相神にされている感覚を得ようと、蓮はきつく目を閉じた。 「あ、あ、あ…ん、やぁ」  すると本当に相神にされているような錯覚を覚え、甘い声が溢れ出す。  陰茎を擦る右手も力が強くなり、スピードが増した。コリコリと乳首を引っ掻くように刺激し、陰茎の先端に親指をグッと食い込ませる。その強引さが相神の手技のようで、背筋に痺れが走った。 「んんっ!」  瞬間、白い液体が飛び出す。蓮は重たい目蓋を待ち上げ天井を眺めた。  はぁ…はぁ…と何度も荒い息を吐き、空気を取り込む。  暫くして息が整うと、身体の更に奥の方でジクジクとした熱を感じた。自身の更に奥に潜む蕾の中がヒクヒクと蠢動する。  燻り続ける熱に蓮は再び目を閉じ、右手を這わせ、蕾をその指の腹で撫でた。 「あっ、ん」  待ちわびた刺激に、蕾のヒクつきが増す。爪先で襞を引っ掻くように捲ると、そこから甘い痛みが広がった。 「あん…はぁ、い、い…気持ち、いいっ」  更にその刺激を感じようと、何度も何度も引っ掻く。 「ああっ」  堪らず達してしまいそうになり、蓮は慌てて空いた左手で陰茎を掴んだ。 「やぁ!」  きつく掴まれた自身からは白い液体がジワリと滲んだだけで、残った熱が身体の中を彷徨う。イクことの出来ない辛さに身体はどんどん熱くなった。 「ぁ、うぁ…だめ、もう…」  際どいさじ加減すら相神にされているようで、その快感に酔ってしまう。蓮は己でも驚くほど、痛みに快感を覚えていた。  手首につけていた髪ゴムで先端を縛る。 「っ」  走る痛みでめまいがするが、蓮はその痛みを紛らわすように自身を扱いた。まるでこの行為は快感なのだと教え込むように。  萎えることのない自身を刺激しながら、両膝を立て、再び奥まった蕾に触れた。乾いたそこはヒクつきながらも、指の侵入を拒むように固く閉ざしている。  蓮は一度指を口に含み、唾液でねっとりと濡らした。 「はぁ…はぁ…」  そして蕾に触れ、ゆっくりと挿入していく。 「あ…ん……あぁ、せん、ぱぃ」  ゆっくり、ゆっくりと指を挿入し根元まで潜り込ませると、蓮は一つ息を吐いた。  温かく、そしてねっとりと絡みつくように指を締め付ける襞。その一枚一枚をなぞるように指を動かした。 「あん、ん、ふっう」  内壁を擦るその刺激に、声が漏れる。堪らず、もう一本指を増やした。  元来こんな所で快感を得ることは間違っているのかもしれないが、相神に抱かれた蓮の身体は、それが正しい快感であると判断していた。そして与えられる刺激を従順に受け入れてしまっている。  蓮は指の動きを早くした。何度も出し入れを繰り返しながら、しこりの部分を指で押しやったり、引っ掻いたりする。すると、えもいわれぬ快感が押し寄せ、抑えきれない欲望が競り上がってきた。瞬間、自身を縛っていたゴムを外す。 「あああっ…せん、っぱ」  嬌声と共に蓮の欲望がビューッピュッと断続的に吐き出された。目蓋の裏でチカチカと星が舞う。あまりの快感に息が上がり、肺が苦しさを訴えた。  息が静まった頃、蓮は薄っすらと目蓋を持ち上げ、手の平に吐き出された白濁の液体を見た。  ねっとりと指に絡みつくそれを呆然と眺め、力なく胸元へと落とす。一気に現実に引き戻されたような感覚に襲われた。  全身から力が抜け、もう何も考えられない。体の熱は冷め、指一本動かすのも億劫だ。そしてそのまま急激な睡魔に襲われ、蓮は瞳を閉じた。  翌週の月曜日を迎え、昼休み、蓮はいつものように図書室へと向かう。  先週は休んでしまったため、ナツに迷惑をかけてしまった。ナツは自分の所為だからと言っていたらしいが、その理由は分からない。訊ねようにも避けられているかのようにナツとはあの日、下駄箱で別れてから会っていない。ナツの朝課外が始まり、登校時もずっと別々だ。蓮は敢えて家を訪ねることもしなかった。何となく真実を知るのが怖かったせいかも知れない。  相神とは先週家で話をして以来だ。学校には来ているようだが、避けられているようで、図書室にも顔を出さなかった。 「図書室以外で相神先輩と会うことないのに…」  今日も避けられていたらどうしようと少し重い気分になりながらも、図書室の扉を開く。  平素であればすでに相神がカウンターに座っているが、今日はまだ来ていないようだ。  やはり避けられているのだろうか。  だが、蓮には相神がそんなことをするような人には到底思えなかった。それよりも避けられている現状をどうにかしなければ、と頭を悩ませながらカウンターに入ろうとする。すると、司書室にいる相神の姿が視界に入った。  普段ナツがいる為か相神は滅多に司書室には入らない。  本当に珍しい光景だと思いつつ中を覗くと、どうやら相神はナツと話しているようだった。何を話しているのか気になり、司書室の扉を気づかれない程度に少し開く。 「どうして嘘を吐いた」  聞こえてきたのは、怒鳴っているわけではないがどこか怒気を孕んだ相神の声。  嘘とは何のことなのか分からず首を傾げ、更に聞き耳を立てた。 「どうしてって…決まってるだろ。横からポッと出てきた奴に好きな人掻っ攫われて、喜ぶ奴なんていないと思うけど。いるんなら是非会ってみたいね」  ナツの声音は普段通りだが、言葉の節々がどこか刺々しい。  一体何の話をしているのだろうか、とまた少し扉を開いてみる。 「だからって、どうしてあんな」 「面白くねぇんだよ! お前に分かるか!? 生まれてから今までずっと傍にいて、近くにいて…好きだって言い続けたのに信じてもらえない奴の気持ちがっ……ずっと…ずっとガキの頃から好きだったのに…なのにっ…会ったばかりのお前に惹かれていく蓮を、ただ見てることしか出来なかった俺の……お前なんかに、俺の気持ちが分かって堪るかよっ!」  その言葉に蓮は目を見開いた。  これは、今までナツが抑圧してきた想い。それが溢れ出た言葉だ。  ああ、ナツを傷つけていたんだ…ナツに同じ思いをさせていたんだ……こんな辛い思いをずっと…。  それと共に、相神が勘違いしていた理由もそこにあるのだと思った。多分、ナツから何か聞いたのだろう。でも蓮にナツを責めることは出来なかった。  胸が苦しくて痛い。ナツの言葉が棘のように刺さって胸の奥がチクチクと痛む。目頭が熱くなっていくのを必死に堪え、泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせる。  蓮はそうやって耐えるのが精一杯で、少しでも気を緩めたら勝手に涙がこぼれてしまいそうだった。  それ以上扉を開くことは出来なかった。薄いはずの扉が今の蓮にはあまりにも重くて、そっと閉めると扉から手を離す。そして相神への想いにもそっと蓋をするように目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!