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第6話

 その日の撮影で久しぶりに元セフレのマナトに会った。マナトもモデルで、一年ほど前まで関係があった。体だけの関係と割り切り、楽な関係だと思っていたがマナトが交際を迫ってきたため、関係を切ったのだ。  撮影が終わりマナトがルカの肩に腕を回してきた。 「久しぶりにどう?」 そう耳元で言われたがマナトの腕を振り払う。 「しない」 「いいじゃん、久しぶりにルカの家に行きたいな」 「ダメだ。今、家に……」 ノエルの顔が浮かぶ。 「いいぜ、久しぶりにやろうか」 そう言って口角を上げた。  寝室に入ってくるなよ、ノエルにそう言い聞かせると、マナトと寝室に入る。その言葉にノエルは少し悲しげな顔を浮かべたが、黙って頷くとリビングで映画を観る事にしたようだった。ルカはわざと寝室の扉を細く開ける。案の定、ノエルはその隙間から自分とマナトの行ためをじっと見つめていた。じっとりとしたノエルの視線に嫉妬の感情が伝わってくる。その視線にルカの感度が上がり、何度も達した。マナトとSEXをしているはずなのに、ノエルと交わっているような感覚に襲われた。  マナトを見送り振り返るとノエルがリビングから顔を半分だけ出しこちらを睨んでいた。その目にゾッとする。金縛りにあったように体が一瞬動かなくなる。だが次の瞬間には嫉妬に狂うノエルの視線に興奮すら覚え、散々したというのに下半身が疼き出す。そんなルカに気づく事なくノエルは不機嫌そうにソファに体を沈め、テレビに視線を向けている。 「ノエル、悪かった。付き合いも必要なんだよ」 そう言ってノエルに近付くと後ろから抱きしめてやる。 「僕にはルカだけなのに、ルカは僕だけじゃない」 「ノエル……」 少しずつノエルの感情が育ち始めている。 「体と心は別だよ。心はノエルだけだ。愛してるよ、ノエル」 つむじに一つキスを落とす。 「愛してる……僕もルカを愛してる」 『愛している』という言葉を理解しているのかは分からなかったが、その言葉にルカの感情が高揚し、ノエルに深く口付けた。 次の日の夕方──。 打ち合わせのため事務所に訪れたルカはマネージャーの紗栄子の言葉に驚愕する。 「マナトが?」 「ええ、びっくりよね。昨日一緒に撮影していたのに……」 (マナトが死んだ?) 「連絡が取れなくて、今朝マネージャーが自宅に行ったら死んでたって……薬をやってたみたいで、過剰摂取による心臓麻痺だったみたいよ」 昨日の今日でルカは動揺を隠せずにいた。  「ショックよね……」 紗栄子はその後も何か話していたが頭に入ってこなかった。 自宅に帰りいつものようにノエルが出迎える。テレビが付いており、ちょうどマナト死亡のニュースが流れていた。 「この人、死んだんだね」 不意にノエルは聞いたこともない低い声で呟く。 「僕のルカを奪おうとするから、天罰が(くだ)ったんだ」 そう言って不気味な笑みを溢す。 「天罰……?」 「そんな事よりご飯食べよう、ルカ」 次の瞬間にはいつもの幼い笑顔を浮かべていた。 まるで自らマナトを殺したような物言いにその時、初めてノエルに対して違和感を感じた。

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