7 / 16

第7話

それから、いくつか不思議な事が続いた。  ルカと同じマンションの同じ階に、二年程前からストーカー紛いな事をする男がいた。男は片桐といい、見た目は特徴のない普通の中年男で、自分と同じマンションに住めるということはそこそこ収入があるようだ。何か被害があったわけではなかったが、自分の帰りを待っているのか張っているのか、部屋を出ると必ず顔を合わせた。気持ち悪いとは思ったが特段何かされたわけではなかったため、放っておいた。しかし、とうとうその片桐が部屋を訪ねてきたのだ。  インターフォンが鳴らされ、片桐の姿にルカが固まっているとノエルが心配そうに寄ってきた。 「どうしたの?僕が出ようか?」 少し考え、この男がノエルを見てどう反応するのかも気になった。 「頼んでいいか?」 「いいよ。任せて」 得意げにノエルは言う。 「何かご用ですか?」 そう言って玄関の扉を開ける。ノエルの背中越しに片桐を見ればノエルの姿を見たまま、目を見開き口をあんぐりと開けたまま動きが止まっている。まるでこの世の者ではない何かを見たような表情だった。 「何かご用ですか?」 ノエルは不審そうにもう一度尋ねる。 「あ、あ、あなたは……?」 瞬きを忘れたように相変わらず目は見開いたまま、やっと出た言葉がそれだった。 「僕?僕はノエル」 「ノエル……」 「で、ルカに用なの?」 「い、いえ……なんでもありません……」 そう言って片桐は帰って行った。暫く帰っていく片桐の背中を眺めていたが、ノエル……ノエル……、と名前を不気味に何度も呟いていた。 「変な人だったね」 「あ、ああ……」 ノエルは気にする様子もなく部屋に戻る。  二年もの間、自分をストーカーしていたのにノエルを見た瞬間あっさりノエルに心変わりした。それが、ノエルを目の当たりにした世間の反応なのかと思うと、焦りを感じそして酷く惨めな気分にさせられノエルの美しさにルカは嫉妬したのだった。  迷惑なことに、それから片桐は昼夜問わずノエルに会いに、ルカの部屋を訪ねてくるようになった。ルカがいる時はルカが追い払ったが、仕事でいない時は絶対に出ないようノエルに言い聞かせた。何度注意しても毎日訪ねてくる片桐を、いよいよ警察とマンションの管理事務所に相談しようとした。

ともだちにシェアしよう!